息子が急性散在性脳脊髄炎になって倒れた話5
しばらくして、待合室に先程の医師が来て声を掛けてくれた。
ついていくと4時間ぶりに長男に会うことが出来た。
脳波を読み取るコードや、様々な薬剤を投与するための点滴、心電図や脈拍を測る為の機材、そして口から入れられた人工呼吸器。
今までの人生で見たことも無いような機材に繋がれて眠る長男の姿を見て、込み上げてくるものがあった。
「お疲れ様だね。先生達一生懸命助けてくれてたって聞いたよ。一人で不安だったろうけど、頑張ったね。」
そんな言葉を掛けながら、ベッドに寄り添い一緒にPICUの入り口まで向かった。
一見穏やかに眠っている長男の顔を見て、とにかく声を掛け続けなければ。と思った。
けれど、PICUの入り口に着くと、
「今からベッドのセッティングなどしますので、PICUの外でお待ちください。医師から説明出来る状況になりましたらお声がけしますね。」
「よろしくお願いします…!」
そこから定期的にPICUから聞こえてくる小さな子の泣き声や様々な機械のアラート音を聞きながらひたすら待ち続けた。
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しばらくすると、PICUの看護師さんが入院のしおりとPICUで必要なものについて、また新型コロナウイルス感染拡大防止の為の面会制限の説明を受けた。
その後、続けてPICUの責任者の医師が時間をとってくれ、個室で説明をしてくれることに。
「現段階で息子さんには副作用のリスクがあると言われる薬剤も使用しています。でも、様々な情報の中で、一番リスクが少ない組み合わせ、量、使い方をきちんと判断しながら24時間目を離さずに使います。心配でしょうが、我々は信じて頂けたらと思います。今は「生きること」に重きをおいています。そうしないと息子さんを「今」生かし続けることが難しいからです。」
そういう話出しから説明は始まり、やはり長男の生命はギリギリのところにいるのだ、ということを妙に冷えた頭で考えていた。
「また、24時間何が起こるか分からない状況ですので、同意書が必要になるような治療について、今説明させて頂き、この場で同意書を記載して欲しいのです。」
そこで、この病気の治療に血液製剤を使用する可能性があることや輸血から作られる薬なので、輸血と同じようにリスクもあること、色々な治療薬を投与したり挿管をしている関係で目が覚めたときに暴れられると大きな怪我などに繋がる為、身体を拘束することがあることなどの説明文書を何枚か手渡され、内容の説明を受けた。
何枚か同意書を書き終えると、
「現段階で説明出来ることはこれくらいですし、神経内科の主治医のほうも今日は説明することは無いとのことです。ご心配だとは思いますが、また明日規定の時間に面会に来てください。その時に経過説明をします。」
という言葉と共に、その日の説明が終了した。
PICUに戻っていく医師を見送りながら深く深く頭を下げた。
「どうか、どうかっ!息子をよろしくお願いいたします…!」
このとき、やっと涙が溢れた。
今まで私と離れて寝たことなど数えるほどしか無かった長男。
今は薬で眠らされているというから、楽しい夢を見れているといい。
そんな思いと彼を手放したくない、失うかもしれないという不安感が一気に押し寄せてきた。
「最善をつくし、お預かりさせていただきます。」
そう言いながら奥へと向かう医師を見送り、閉じて行く自動ドアを前にしばらく動くことができなかった。
カチッ…カチッ…
薄暗い廊下に時計の秒針の音が響いていた。
この夜の気持ちを私は一生忘れることは無いだろう。
「長男、頑張るんだよ!ママ、信じて待ってるよ!」
そう小さな声で長男の居るドアの向こうに呟くと、やっと帰宅への一歩を踏み出した。
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