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妄想むかしばなし。


みどりをきみに。

私は今でも、「院習(いんしゅう)と呼ばれている男。

さっき、夢を見たんだ。


「ミンノコ、それはどうするの?」

「ミンノコは、いんしゅーにこれを!!」

小さな両の手の平に収まっていたのは、それよりも更に小さな葉っぱだった。
それを、私に差し出して来た。

「くれるの?」

「いんしゅーが、ミンノコに知識をくれたからいんしゅーにも!!」

…かわいい。

「ありがとう」

手を広げて受け取ろうとしたら、キョトン顔で否定された。

「違うの。これはミンノコがしてあげるの」

「あぁ」

かがんで頭を差し出すと、その上に乗せてくれた。

 

「ミンノコ、何をくれたのです?」

「今日は、黄色い花をつくったお礼」

「ありがとう。でも、作っただけではないのですよ?ミンノコも覚えた」

「うん」


土から水と養分を吸って育って出来た葉っぱを頭の上に乗せるのは、私がミンノコを褒める時に行っていたちょっとした「儀式」だ。

大地と水と空気と太陽の光…それらで育った全ての物を代表したアイテムとして、知識を私から真似して得ていく度に「私からだけでなく、この葉からも、更に教えてもらうといい」と言って行っていた儀式化した褒め方だった。


風は流れる

ミンノコは、私の娘だ。

私と人の子だ。

私は人ではなく神だが、ミンノコを生んでくれた者は女性。

私は彼女を「ミ」と呼んでいた。

ミンノコは、私が公の場ではミンノコの家臣として水面下で指導する頃には「ミヒメ」として活躍してくれた。


「ミンノコ、私の地位を譲りましょう。そなたが今後は民を指導していくといい」

「院習はどうするのです?」

「私は、そなたの家臣として寄り添いましょう」

「……わかりました」

「ミンノコよ。そなたはこれから、ミヒメと名乗りなさい。
そなたのミ=身ではない。ミヒメ、そなたの名前に『身』を使ってはいけない。

『御身』になるからだ。

『魅』としなさい。

ミンノコはミヒメと名乗り、私が教えたように様々な手段で民を率いていきなさい。

ミヒメは『魅姫』と書くといい。

『魅力の姫』だ。

神拝詞 我に来給え 幸給え
(のりと われにきたまえ さきわえたまえ)」


私が教えておいたよ。

頭の上に葉っぱを乗せるのも、ミンノコはきちんと覚えていた。

知恵を吸い上げた葉っぱ。

それを民の頭にも載せてやるのだ。

地位の高い者の仕事とは、そういうものなのだ。それが出来る者が指導者なのだ。


柴田部長


地は育む

私が愛した女性は、民。

故に、ミと呼んでいた。

ミヒメはミの子。

故に、ミンノコ。民の子。私の子。

私は、ミヒメに地位を譲って側近となってかもミヒメにこっそり教え続けたことがいろいろある。

また、私もミンノコ…ミヒメから教えられることがいろいろあった。


ミの血も継承しているからだろう。

心優しい賢い女性に育ってくれたが、それ故に愛情というものが豊か過ぎるように私からは見える時があった。


魅姫や民からの神拝詞による願いは、案外多かった。

神拝詞は私に来る。

だが、そうは言っても微笑ましい願いばかりだった。


水は流るる

ある日、何かを察知した魅姫は私に言った。

「院習、あなたはいつか居なくなってしまうのですか?」

「それは………」

私は言葉に詰まった。
神の集会や連絡会で、度々要請があったからだ。

「離れても、そなたや民の事を忘れたりはしませんよ」と答えたが、魅姫は少し顔を曇らせた。

「暫くは、淋しくなりそうですね」

「…私は、必ずここに戻ります。地位はそなたに譲りましたが、この土地に縁ある神なのですから。それに、今ではそなたも大層立派になった。信用に値するからこそ、そなたは民にも慕われているのですよ」

苦笑いをする魅姫にすまないと思った。
が、魅姫は微笑んだ。

「はい。わかっています。私は、院習の子。神の子。でも…あなたの子は私だけではないのも知っています。世代を超えても、あなたを待つでしょう」


炎は舞い上がる

私が戻った頃、私のことを覚えている者は随分減っていた。

だが、怨んだりはしない。

魅姫は暖かく出迎えてくれた。

「おかえりなさい。院習」

「魅姫、長い間の代役をありがとう」

「いんしゅー、だいすきー!!」

「私の不在の間、神拝詞が減った故…そなたが受けていたのであろう?」

「できるようになったから♪」

私には、魅姫がミンノコとして見えていた。
当然だ。私の子なのだから。
相変わらず、かわいい…。

とても苦労しただろうに、文句も言わず私との再会を喜んで抱き付いてきた。

「苦労かけて、すまなかった」

「でも、私はいんしゅーの子。だから、責任があるの。それは、嫌なことじゃなくて名誉なことなの。そうでしょ?」

ハグ-2

(ひとまず脳内イメージ補完の為のイメージ画像)


「魅姫、そなたが民を大切に導いてきてくれたのが解りますよ。
私にも、もはや劣りはしないでしょう」

「何故そう思うのです?」

「そうでなかったら、私はここに戻って来てもそなたには会えなかったであろう」

魅姫はいちいち聞き出そうとはしないが、私が他の地で戦に参加していたのは知っているだろうし、知らない方がおかしい。


再会は無事に果たしたが、その次にはまた御用という勤めがある。

「祓へ給ひ 清め給へ 守り給ひ 幸へ給へ」

「神拝詞 我に来給へ 幸へ給へ」

魅姫と共に神拝詞を宣(の)った。

勿論、その神拝詞から民への手助けと勝利を導く為だ。

魅姫は静かに、しかし、怒りを含んだ声で言った。


「私は院習の子。されど、民も院習の子であり、私の子でもあります。
私達の子への許されざる積年の愚行、もはや許す気など毛頭ありません。
弥栄を阻む愚か者は、もう始末するしか他にありません」


…立派になったね、ミンノコ。
私は嬉しいよ。美しく強い女神…。

ミよ、ミンノコを生んでくれてありがとう。
そなたにも恥をかかせぬよう、私も魅姫も民を守ろう。

それが…私達の永遠の弥栄でもあるのだから…。


夢はこれで終わり。
今の私は、この通り安泰に暮らしている。

何故って?
途絶えて衰退していた永遠の弥栄が取り戻され始めたからだよ。


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