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愛すべき ゆと

「し~ずくちゃ~ん」

「・・・・」

「し~ず~く~ちゃ~ん」

「・・・・」


「ゆとくん いらっしゃい しずくならまだ寝てると思うから起こしてあげてくれる?ほんとにもう幾つになっても寝ぼすけで困ったもんだわ」

しずくの母親に促されてしずくの部屋まで上がるゆと

タンタンタンと階段を登り、コンコンコンと部屋のドアをノックする

「し~ずくちゃん 起きてよ」

「・・・・」

「開けるよ?」

しずくの部屋のドアを開け、ベッドに目をやると布団を抱きしめ足まで布団に絡めたしずくが寝ている

くぅくぅと寝息を立て短パンから伸びた白いすらりとした足にちょっとドキリとする ゆと


「しずくちゃん 起きてよ! 遊びに行こうよ!!」

「う~ん… まだ…ねむい…のよぉ」

「日曜日なんだし遊びに行こうよ!いつまでも寝てないで、ほら起きて!」

しずくが絡みまくっていた布団をブンブンとふりまわす ゆと

「しずくのママもきっと朝ご飯片付かなくて困ってるよ!」

「わか~った!わか~った!! 着替えるから出てってよっ!」

幼なじみとはいえ高校生にもなると鈍感なしずくにも恥じらいがでてきたのか ゆとを部屋から追い出した

階段を降りながら少しほっとする ゆとであった

しずくの母親にしずくを起こしたことを伝え ダイニングに座る

「ゆとくんは紅茶だったわよね、今入れるから待っててね ほんとしずくの寝ぼすけには困ったもんだわ」

はぁとため息をひとつ

テーブルの上にはしずく用の朝ご飯が用意されている

冷めかけた半熟のベーコンエッグにサラダ トーストはしずくが起きてきてから焼くのだろう ポップアップ式のトースターに一枚厚切りの食パンが準備されている


「今日はカラオケ行きたいんですけどいいですか?」

ゆとがしずくの母親に訊く

「いいわよ~♬ 歌番組好きだもんね あの子 聴くより歌う方が好きみたいだけど うふふ」

と小さく笑う


トントンと階段を降りてきたしずくが洗面所に行き歯磨きと洗面を済ませダイニングに来た


「ゆと 遊びに来るの早すぎ~! もっと寝てたかったのに」

しずくはふくれっ面である

そんなしずくの文句はお構いなしに

「しずくちゃん 今日はカラオケ行こうよ! ボク歌いたい歌練習したんだぁ~♬」

「・・・・ゆと 音痴じゃん でもいいよ 行こう行こう!」

「ほら 早く朝ご飯食べて!」

「せかさないでよ まったく! 紅茶熱いから舌 やけどに気をつけなさいよ」

「うん!」

ニコニコしつつフルーティな香りの熱い紅茶を飲みながらしずくの食事が進むのを見ている ゆと

食べ終わった食器をシンクへ運ぶしずく

母親が片付けるのを横目に

「ごちそーさま」

と声をかけ

「今日 カラオケ行ってくるから」

「ええ 聞いてるわ 気をつけていってらっしゃいね」

「は~い」

「ゆと君 よろしくね」

「はい!いってきます」

お気に入りの赤いスニーカーを靴箱から出し

「うふふ~♬」

とご機嫌になったしずく

自転車で並走してカラオケ屋さんまで行くふたり

自宅近くの川の土手を軽快に走る

まだ2月とはいえこの数日暖かい日が続き 自転車を漕ぐのも気持ちがいい

「ゆと 今日何歌うの?練習したって言ってたけど」

「炎 歌うんだ~♬」

「はぁ?! あんな難しい歌 歌えるの?!」

「だから練習したんじゃないかぁ」

「ふ~ん じゃあしずくは紅蓮華歌おっかな~っと♬」


カラオケ屋さんに着いたふたりは手続きをすませ フリードリンクのカップをもらう

「ホント コーラ好きだよね~ ゆと」

「そうゆうしずくちゃんも いつもアップルジュースじゃん」

カップになみなみと飲み物を注ぎ 部屋に行くふたり


「ボク い~ちばん!」

「いいよ~♬ しずく他にも歌いたい歌あるから 探してよっと」

「曲探してないで ボクの歌聴いててよ」

「だからぁ ゆとは音痴なんだってば」

「練習したんだからっ!」

「わかったわかった! まったくもぉ」

ゆとはあまり歌は上手な方ではないが 聴いてもらえないのは好きではない

「さよ~なら~ あり~がと~ 声~の限り~♬…」

『ふ~ん いつもよりはマシかな よっぽど練習したんだな』

しずくがゆとの歌を聴きながら心の中で呟いた

続きを歌うゆとだがその先はいつもどおりのゆとであった

膝に肘を乗せ聴いていたしずくは ガクっとずっこけた

『やっぱり ゆとだ』

しずくはテレビから聞こえる音より大きな声で歌うだけ合ってかなりうまい

紅蓮華をそつなく歌い上げ 次に歌う歌をいろいろ探している

ゆとは不服そうだが 自分があまり上手くないのは知っている

しずくと交互に好きな歌を歌い それなりに楽しんでいる

「トイレ行ってくるね」

そういうしずくに アニソンを歌いながら コクコクとうなずく ゆと

しずくがトイレから戻ると 聞き覚えのあるイントロが流れ出していた

ゆとがGReeeeNの「愛唄」を歌い出すところだった

しずくは ゆととカラオケに来ると ゆとが必ず歌うこの歌が好きなのだ

上手さはともかく 一所懸命さが伝わるので愛おしく感じるのだった

体を左右に揺らしてテンポを取りながら ゆとの歌を聴いていると幸せに感じる

時々しずくの方を見て歌うゆとを愛おしげに見つめるしずく

生まれる前から近所づきあいをして 幼なじみながらずっとお互いに好き同士でいるふたり

もちろんこの先のことはわからないけど きっと何年か先には ゆとの隣に白無垢のしずくがいるだろう

願わくば 尻に敷かれっぱなしのゆとが もう少し優しくしてもらえたら…


                       fin


※フィクションです

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