「SHOE DOG」書評 ナイキを創った男から垣間見る経営者のリアル
ナイキの創業者の自伝と言われれば、華々しい成功体験であったり、確固とした経営理念が語られているのだろうと期待する。
しかし、それは見事に裏切られる。この本から読み解けるのは、オニツカの靴に魅了され、靴を愛し靴にすべてを捧げる男のドラマだ。
ナイキの前身である、ブルーリボン社は1962年にフィル氏がオニツカと販売代理店契約を結ぶところからスタートする。
アメリカ人のほとんどが飛行機に乗ったことがない時代に、ほんの20年前まで敵国だった日本へ赴き、自ら神戸のオニツカ本社で交渉をした。
よほどの信念がなければ、できない。
「オニツカタイガーはアメリカでも売れる」。
自宅を倉庫にし、自ら車で靴を売りまわった。親から資金を借り、自宅を抵当に入れ銀行から資金を借り、自身と同じく靴を愛する仲間を増やした。
それから約10年後、ブルーリボン社はオニツカから代理店販売契約を打ち切られる。
泥沼の裁判に発展しながらも、会社の活路を探るフィル氏に手を差し伸べたのは、日本の七大商社、後の双日となる、日商岩井だった。
日商岩井の資金提供、日本の靴製造メーカーの紹介などの協力を得て、ナイキは発足し、誰もが知る世界的企業へと成長を遂げる。
会社の中核を担う「バットフェイス」とのコミュニケーション、銀行との交渉、株公開への苦悩。そこには、華々しい成功を遂げた男のリアルな声が反映されている。
当書では、オニツカとの契約打切りまでの話で、半分以上の頁を占めている。
オニツカへの恨み節も散見されるが、根底にはオニツカタイガーへのリスペクトがあり、靴への愛に溢れている。
靴にすべてを捧げる男のドラマがここにある。
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