街のお弁当屋さんのお話

僕の家の近所には、安くてボリュームもある小さなお弁当屋さんがあります。ここはおばあちゃんが二人で切り盛りしていて、近くの住民から愛されているお店です。

今日も常連と思われる大学生くらいの男の人がどのお弁当にしようかを迷っていました。僕は後ろで並んで待っています。

「タカシマくん、今日は何にするー?肉じゃが今できたところよー!」

今日も元気な声でお弁当を勧めるおばあちゃん。

「じゃあ肉じゃがにします!あ、あとこれ良かったらどうぞ。手紙も入ってるのでよかったら読んでください。今までお世話になりました。ありがとうございました!」

お茶の葉っぱと手紙が入っているという紙袋を二人のおばあちゃんそれぞれに手渡すタカシマくん。

お弁当にご飯をよそう手を止めて、タカシマ君から紙袋を受け取るおばあちゃん。

「えー!?なに!?こんなんもらってもいいの??ありがとうね、いつもきてくれて!東京に行ってもがんばってね!あと、体にも気を付けてね。」

「はい!ありがとうございます!また、こっちに帰ってきたら弁当買いに来ますね!今までお世話になりました!」

「うんうん、もうあんまりしゃべると涙が出ちゃいそうだから何も言えないけど、ありがとうね。」

タカシマくんは今年大学を卒業して東京で就職するとのことでした。今日がお弁当を買いに来る最後の日でした。最後のあいさつを終えてタカシマ君は店を出ていきました。

「お兄ちゃんはなににするー!?」

「じゃあ僕も肉じゃがでお願いします!ご飯は白ご飯で!」

このお店は白ご飯か、炊き込みご飯かが選べる素晴らしいお店なのです。

ごはん係のおばあちゃんがお弁当に白ご飯をよそっている間に、もう一人のおばあちゃんがタカシマ君からの手紙を読んでいました。

「うれしいねえ。こんなのくれて。タカシマ君。あれ、タカシマ君の名前なんてよむのかなあ。ちょっと難しくてわからんわあ。」

「んー?どれどれ?」

ご飯をよそう手を止めて、手紙を見るおばあちゃん。

「んー、私もわからんわあ。あ、お兄ちゃん、これなんて読むかわかるー??」

おばあちゃんから手紙を受け取り、その名前を見る僕。すごく丁寧な字で書かれている。

「これはー、タカシマユウキ君ですね!」

「そっかー、ユウキ君っていうのね!お兄ちゃんありがとうね!じゃあこれ肉じゃがです~」

お弁当屋さんを出て、学校に向かう途中、僕はなんだかすごくうれしい気持ちになった。

それは、毎日通ってお弁当を買って、ある意味育ててもらっていたその感謝をきちんと伝えるタカシマ君と、その気持ちを素直に受け取って心から喜ぶおばあちゃんたちの姿を見たから。そして、その心温まる場面に、少しだけでも自分が関わっていけたから。名前を知ったことでタカシマ君の感謝の気持ちがもっとおばあちゃんたちに伝わったんじゃないかな、と思ったから。

このご時世、あまり外に出たりすることも慎んでいかないといけませんが、どのような形であれ、こういう人の温かさに触れて生きていきたいなあと思いました。


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