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タイの青春モノ映画が、夢を追いかける尊さを教えてくれた話(「カンペーン」の感想)

人は自分を見失った時、そして自信をなくした時に「過去の自分」に戻るのかもしれない。監督と主演を務めたナークプー監督は、予算や機材が限られているというまさに“うだつが上がらない状況”の中で、自分の過去を振り返る今作を撮影している。

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題材は、幼くして出家したものの映画の世界で活躍したいという夢が捨てられない少年僧のルン(若き日のナークプー監督)。ルンは屋外映画(屋外に映写機を持って行って星空の下で映画を上映する会)を見るために、夜な夜な壁を超えて彼がいる寺院を抜け出す。ちなみに今作の英語タイトルWallは、ここから発想を得ているとのこと。

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その他にも、ルンの周りには部屋でタバコを吸ったり喧嘩を申し出る輩がいたりと、少年僧なのに悪い仲間が集まる。映画を見るために夜更かしをして授業に遅刻したり、仏教の授業に身が入らなかったりと、ルンは映画の道に進もうとすればするほど、壁にぶち当たってしまう。

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ルンの少年時代と同時並行で、ナークプー監督の映画撮影に向けたロケハンが続く。しかし、期待していた絵づくりができなかったり、信頼していたスタッフが身内の都合で抜けてしまったりと、監督も同じく壁にぶち当たってしまう。

八方塞がりになった監督は、かつて自分が訪れていた廃墟の映画館を訪れる。そこには、少年僧だった頃のかつての自分がいて…。

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ファンタジーとドキュメンタリーが同居する今作は、監督曰く「自分に見せたいと思って撮影した作品」なのだとか。

廃墟の映画館で少年僧ルンは、ナークプー監督に問う。
「どうして映画を撮るの?自分の存在意義のため?」
ナークプー監督は応える。「そうじゃない。映画を撮らない人生は寂しい。」
実際に監督はプライベートでも「もうメガホンを置いて引退した方が良いんだろうか」と悩んだ時期に今作を撮影したそうだ。しかし、今作を監督したことで悟ったと語っていた。曰く「監督業は自分では辞められない。」つまり映画に出ること、そして監督することがナークプー監督にとっての“生きること”なのだろう。

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今作のタイ語の原題は「少年僧は壁をジャンプする。」心の壁や限界の壁を超えて、夢を掴むことを励ますこの作品は、タイの若者にとてもヒットしたのだとか。かっこ悪くても、泥臭くても追いかけたい夢がある。そんな“ライフワーク”に出会えた人生は素晴らしい。今作はナークプー監督にとっての“ライフワーク”である映画への想いを感じられる作品だし、夢を追いかける日本人の若者にもきっと共感してもらえる作品だと思う。

【予告動画はこちら】
https://www.youtube.com/watch?v=xMCbRmTyCls&feature=share