『犬王』にみる思想統制の犠牲者と名前について
友魚と犬王の出会いの場面から、当時の名前の役割と思想統制について考える。
1.亡霊と現世のものをつなぐ名前
友魚が琵琶法師集団の覚一座に受け入れられ、名前を「友魚」から「友一」にした場面(図1)では、父親の亡霊が友魚に「名前変えたら見つけられんよーになるけの。名前しきゃ見えんのじゃけ。」と言い、「わりゃー壇ノ浦の友魚でよ。」 とつなげる。父親を含む亡霊は無念を晴らせず、成仏できずにおり、この世の者にその義務を託している。その上で、名前でのみこの世の者