希望の種
『どっかーん』
… とても 大きな音がして辺り一面 火の海になってしまいました。
それは、神様が太陽のカケラを地球に投げ付けたからです。
神様は、地球上に住んでいる全ての生き物たちが、我儘で欲張りで自分の事しか考えていない事に、ひどくがっかりして全部燃やしてしまおうと思ったのです。
何日も何日も火は燃え続け、地面は焼け焦げて、川や池が涸れ、沢山の草や木や動物が死んでしまいました。
やっとのことで、火が消えた頃には、ほんの僅かな動物と草や木だけが生き残っていました。
それまで、すき放題に勝手気ままに生きてきた動物や虫や草や木は、これからどうしたら良いか判らずに、皆、大きな焼け野原に集まっていました。
草や木が泣いています。
「こんな、焼け野原に居たんじゃ、私たちは直ぐに枯れてしまうわ!」
鳥や虫や小さな動物達は怯えています。
「木や草がなくなったら僕たちは、生きていけないよぉ」
虎や熊が吼えました。
「あー熱い!俺達は、これからどうすればいいんだろう?」
馬や山羊が言いました。
「皆で力をあわせて頑張ろうよ!」「そうだよ、みんなで力をあわせよう!」皆の顔に少しの希望が射しました。
「でも、力をあわせるって、どうすること?」 … 犬が皆に訊きました。
草や木はまた泣き始めました。
「私たちは、種を増やすことが出来るし実を成らすことも出来るけど、こんなに熱くて雨も降らないんじゃ何も出来ないわ、だって動けないんですもの。」
鳥や虫や小さな動物達が困っています。
「草や木が何も無いところでは、僕たちは餌を食べることも出来ないし、大きな動物から隠れることも出来ないよ。」
虎や熊も言いました。
「俺達は、弱い動物を食べる事しか知らないぞ、後は寝る事だけだ!」
馬や山羊まで、また考え込んでしまいました。
「どんなに遠くまで走ることが出来ても、どんな崖を駆け上がることが出来ても、こんなに一面焼け野原だと、僕らはどうしたらいいんだろう?」
すると、そこへ、人間がやってきました。
人間は、にっこり笑っていました。
一番最後にやって来た人間に、草や木が訊ねました。
「私たちは、じっとしていても花や実や種を付ける事が出来るわ!人間にはそういうことが出来ますの?」
鳥や虫や小さな動物達も訊ねました。
「空も飛べない、地面にも潜れない、人間はどうやって自分を守るんだい?」
虎や熊が吼えました。
「おい人間、お前に何が出来る?お前なんかにゃ用は無い!さっさと、どこかへ行ってしまえ、じゃないと、食ってしまうぞぉ!」
馬や山羊が馬鹿にして言います。
「たった二本の足で君は何所まで行けるんだい?一番最後にやって来たっていう事はやはり、のろまなんだね?」
でも、人間は、にっこり笑って応えました。
「確かに、僕は、草や木のように花や実や種を付けることは出来ません。木登りは、猿には勝てません。空を飛ぶにも羽が無いし、穴を掘る事もモグラや鼠に敵いません。虎や熊みたいな力もありません。走っても、崖を上っても、馬や山羊の様にはいきません。でも人間には、皆さんには出来ないことが1つだけあるんです。」
「俺らに出来ないことだとぉ?何だぁ言ってみろぉ」
と虎がちょっと不愉快そうに言いました。
他の皆も「人間なんかに何が出来るもんか」というような顔つきです。
人間はにっこり笑って言いました。
「人間は、”思いやる事”が出来ます。それは皆さんが、ちゃんと生きていける様に、そして、人間もちゃんと生きていける様にするにはどうしたら良いのかと、" 思いやる事 " が出来ます。 ご覧の様に今は一面焼け野原ですが人間には草や木の種を植えることが出来ます。 それが育つと、この熱くて乾いた地面にまた雨が降ってきます。 鳥や虫や小さな動物が安心して暮らすことも出来ます。 馬や山羊も腹ペコにはなりません。 虎や熊たちも生きてゆく事が出来ます。」
人間の話をじっと聴いていた鼠が訊ねました。
「何故、人間はその様に思いやる事が出来るんだ?」
人間はちょっとまじめな顔で答えました。
「だって人間って、思いやる事が出来ないと生きていけないんですよ。 山に木を植えると草も生い茂り、雨が降ると水が蓄えられます動物や鳥や虫達も暮らしていくことが出来ます。 泉から川が出来て山から谷そして野原から海へ流れていきます。 海にも豊かな山の恵みがもたらされます。 でもそれだけではありません。 大雨が降ると川が氾濫します。 大水は草や木をなぎ倒し皆さんの生きている場所を奪い取ってしまうこともあります。 水の道を治める事も人間の大事な仕事です。 そして皆さんにも人間にも、ちょうど良く分け合う事をしないと人間に天の恵みは与えて貰えないんです。 自然を創ることが人間の仕事です。 強い力も無く、空を飛ぶ事も、速く走る事も出来ない人間は思いやる事をしないと、生きていけないんです。」
みんな黙り込んで人間の言ったことを聴いていました。
すると草や木が言いました。
「じゃあ人間さん、私たちはあなた方に、実や種を食べて貰うわ。 お腹が空いていると元気が出ないもの…たまには私たちの花を観てのんびりするのも好いでしょう?」
鳥や虫や小さな動物達も言いました。
「じゃあ人間、僕らはお互いに、人間の邪魔をしないようにするよ!」
虎と熊が吼えました。
「じゃあ人間よ、寒い時には俺たちの毛皮を着てくれ。 食って寝ることしか出来ない俺たちだけど何かしら人間の役に立ちたいんだ、人間が居なくなったら誰も皆のことを思いやってくれないからなぁ!」
最後に、馬や山羊が約束してくれました。
「じゃあ人間、沢山の荷物を運ぶときや土を耕すときは僕たちが手伝うよ。」
「有難う!これから皆で力をあわせて頑張ろうよ!」
人間はにっこりと笑っていいました。
一面焼け野原だった場所に又、皆の希望が射した時です。
虎が、ポツリと言いました。
「人間よ、お前達には、もう1つ人間に出来て他の生き物には出来ない事があるのを知ってるか?」
「……?」
人間は何の事だか良く解りません。
「ヒト以外の俺たちには、“他のものを尊敬する事” が出来ないんだ。」
と、虎が少し寂しそうに言った途端…
それまで話し合っていた他の動物や木や草や虫の言葉が聞こえなくなり鳴き声に変わってしまいました。
人間は、あわてて、周りに居る生き物たちに話しかけましたが、もう人間の言葉は通じませんでした。
木や草達は、ただ風にそよぐだけ、何も言いません。
鳥は飛び立ち、小さな動物や虫達は彼方此方に行ってしまいました。
虎や熊達は駆け出し、馬や山羊はその場にじっとしています。
「これから、皆と力をあわせて頑張っていこうと思ったのに…」
人間ががっかりしていると何所からか声が聞こえてきました。
「お前達ヒトがちゃんと生きていく事が出来ないうちは、他の動物や草や木や虫達も辛い思いをして暮らしているという事だ。 “思いやりの心” を持って頑張れば、言葉なんか通じなくても皆が解ってくれる。 そして、なによりお前達ヒトが愉しく暮らす事が出来る様になる。 お前達ヒトの周りにある、木や水や土や火や風やありとあらゆる物がいつでもヒトを応援している。」
ヒトは静かに頷くと、目の前に落ちている木の実を拾い、そばに居た馬を連れて、自分と同じヒトを探す旅にでました。
まだ、辺りは熱くて地面は乾いていますが、ヒトの目は泉の様に潤い、心には爽やかな風が吹いています。
ヒトは、沢山の ”希望の種” を蒔く事を心に決めました。
おしまい
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子どもたちへの『読み聞かせ用』に作ったお話。
( *´艸`) 2013 / 04
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