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4.インドのみなさんが、サラスバティの出現にざわついた日。

重たい買いもの袋を両手に下げて、よし。やっとここまで到着。
これから、階段をあがっていかなくちゃ。と気合いを入れ直して
ふりかえると、先ほどまでぴったり私の後ろを歩いていた次男坊の姿が
忽然と消えている。。。

次男坊め。また何処かで油を売っているのだな。
この重たい買いもの袋を持って、私に今来た道を引き返せと言うのかい。
君ってやつは。。。君ってやつは。。。

どうにもこうにもうんざりした気持ちで、今歩いてきたばかりの暗がりに目をこらしてみると、大小2つの影がこちらに向かって歩いてくるのがわかりました。

小の方は、わがやの次男坊。

大の方は、先日おうちに招いてくれた、インド人の男性でした。

彼は、次男坊と親し気に朗らかに会話をしながら、ゆっくり歩いてきます。

その朗らかな姿の2人と対照的な感情を一瞬でも抱いていた私は、
なんとなくバツの悪い思いをして、彼に挨拶をしました。

「こんばんは。」

すると、彼の手には、花束が。

意外な組み合わせに、思わず、
「お花。。。きれいですね」と声をかけると、男性は、さらに朗らかな笑顔で、説明してくれました。

私たちにとって、とても大切なお祭りがある。
おうちに祭壇をつくって、
家庭によって異なるのだけれど、長い人は4日間から一週間、
うちは、2日間祈ります。
インドの人たちはとてもこのお祈りの時期を大切にしています。


おお!
それは、私もお祈りさせてもらってもいいのでしょうか。

おそるおそる、たずねてみると、
もちろん!いいですよ。ぜひ来てください!と、また素敵な笑顔。

さっそく、その翌日、息子たち3人と一緒におうちに伺いました。

玄関前から、お香のような香りが漂います。
神聖な空間に誘われるような感覚に、緊張しながら玄関チャイムをならしました。

そして、出迎えてくれた男性の姿に思わず、息をのみます。

朗らかなインドの男性は、上半身裸のうえに、黄金色の絹のような布を片方の肩にかける形で、お祈り用の衣装を身につけています。


小さなシャンシャンなる黄金色の道具を手にして、
お祈りが始まりました。

よくお見かけする我が家と同じ階に住む、インド人ファミリーもいました。


私たちも、見様見真似で、設えられた祭壇の前に跪き、
持参した、くだものをお供えして、手をあわせました。

彼が、シャンシャンなる片手で鳴らす鈴のようなものを鳴らしてくれます。

見るもの全てが、黄金色のようなキラキラした空間。

お祈りをし終わると、カレーをふるまってくれました。

そして、お祈りに集ったみなさんとおしゃべり。

窓が大きく開け放たれている部屋の窓辺に腰をかけて、
風に吹かれながら、みなさんそれぞれにリラックスして
しずかに話す時間は、とても安心していられて
心地よい空間でした。

ふと、開いた窓の向こうをのぞくと、昔、池だった伝説をもつ、あのちいさな公園がありました。
(我が家と同じ棟なのだからもちろん同じ景色なのだけれど、そのお部屋の方が
より、弁財天さまがまつられている場所の目の前だった)
もう、暗くなっていて、木の葉が生い茂っていて、
弁財天さまがまつられる神社は、見えないのだけれど、

私はその瞬間、むしょうに「弁財天」の存在を言わなくちゃという気持ちにかられました。

「あそこに、サラスバティがいらっしゃるのを知っていますか?」

一瞬、インド人のみなさんの動きがとまったように感じました。

「え?え?知りません。知りませんでした。
 どこですか?どこ?」

インドの女性たちも、話を聞いて、窓に近寄り、公園の中の暗がりに目をこらします。

「あそこです。あの公園の隅の方にあります。」

「知らなかった。行きます。とても、良いことを教えてくれました。
 お祈りはどのようにしますか?何を供えますか?」

物静かな女性たちが、ざわざわしています。

「そうですね。サラスバティを守る龍やへびのために、卵を供えたりします。」

と言うと、
そのインド人の女性は、ああ、どうしよう。。。という表情で、
もう1人のインドの女性に、話しています。

(ベジタリアンの方なので、卵は手もとにない。と話していたようです)

すると、もう1人の女性が、大丈夫。私が持っていくから、というような話をして安堵の表情。


「友達家族も、みんな知らないと思います。みんなに伝えます。
 すごく良いことを聞きました」

とても感謝されました。


なるほど。

私は、これをインドのみなさんに伝えるために、
ここにお祈りに来させてもらったのだろうと思いました。

あの夜。買いもの帰りに、道草をくっていた次男坊が、
引き合わせてくれたわけです。

ああ、ほんとうに、
おもしろいなあ。。。


お役目を果たしたような気がした私は、
お祈りに参加させてもらったことに感謝を伝え、
そして、みなさんのように、
眉間に紅い点をつけてもらって、
家に帰りました。


このお話は、数年前に起きたこと。

先日、久しぶりに、こちらの弁財天さまにおまいりして、
驚きました。

蜘蛛の巣や、鳥のフン、埃や砂まみれで
お世辞にも美しいとは言えなかった祠が、
とても美しくととのえられ、
御供物であふれるようだったのです。

きっと、たくさんのインドの方々におまいりをされて、
愛されているのだなあと、感激しました。

全然関係ないかもしれないけれど、
あのときのあの会話が、もしかしたらもしかすると、

この美しい祠への一粒になったのかしら。。。と
ひそかに、むふふとしています。



今日もお読みくださり、ありがとう!

愛しい日々を。


また明日。


咲多美唯喜

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