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小説『俺の赤いネックレスとあの人の命日』

 この店には入ったことがある。店員さんの顔も覚えている。 「メンズってどの辺ですか?」  指差された硝子ケースを覗く。……やっぱりメンズは詰まらない。ネックレスならチェーンにチャームが一つぶら下がっているだけとか。ブレスレットなら丸い石が数珠みたいに連なっているのとか。  店員さんは男性たった一人だった。ドアが開いてショップに新鮮な空気が流れた。若いカップルの客が入って来て、店員さんはそちらに行ってしまう。  携帯の時間を見る。まだ大丈夫。……送られて来た住所は確かにこのショ

掌編小説『そんなことしたら寂しくて死んでしまう』NEMURENUバックナンバー Vol.1

    女って馬鹿ね。まだ諦めない。祈ってる。神様なんて信じてないのに。和光の前で心臓がガクって跳ねて、うずくまりたくなって、でもそれはできなくて、レオナには行く所がある。死ぬ前に。  レオナが崇拝するデザイナー。最期に覗きたかった。銀座の本店。閉店してるのは知ってて、でも閉店してなくても、レオナは中に入らなかった。シャネルスーツの金色のボタン。そこにスポットライト。  発光する金色。その上をなにかが回っている。そんなわけないのに、そんなことがレオナには時々ある。死んだデザイ