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#ネムキリスペクト

小説『俺の赤いネックレスとあの人の命日』

 この店には入ったことがある。店員さんの顔も覚えている。 「メンズってどの辺ですか?」  指差された硝子ケースを覗く。……やっぱりメンズは詰まらない。ネックレスならチェーンにチャームが一つぶら下がっているだけとか。ブレスレットなら丸い石が数珠みたいに連なっているのとか。  店員さんは男性たった一人だった。ドアが開いてショップに新鮮な空気が流れた。若いカップルの客が入って来て、店員さんはそちらに行ってしまう。  携帯の時間を見る。まだ大丈夫。……送られて来た住所は確かにこのショ

小説『十字架とカモノハシ』NEMURENU参加作品。

 こないだ、進路が決まらないのは世情に疎いからだ、と担任に指摘されて悔しかったから、朝の電車通学ではニュースを観ることにしていた。  急ブレーキで電車が止まる。いきなりだったから、車内いっぱいの乗客達の身体は、がくんと前にのめり、悲鳴まで聞こえた。聖華は座っていたから影響はさほどなかった。もし、何らかの事故があったら、ここにいる人達とは運命共同体なんだな。どんな人がいるんだろう、と聖華は辺りを見回す。車内アナウンスが流れる。「只今、停車位置の修正をしております……」。  ほん

小説『サラブレッド』

「オニイサンってさ、なにしてる人?」 「え、オレ? 警察」 「ふーん、いい身体してると思った……。あれ、アタシって、逮捕されちゃうの?」 「なんで? なんにも悪いことしてないだろ?」 「そうよね。あ、でもコレって、御金貰ったら売春よね」 「じゃあ、御金上げないから」 「……え、ソレはヤダ」 「逮捕して欲しいの?」 「そうじゃないけど……あんまり明るいところで見たら恥ずかしい。嫌でしょ。臭うでしょ」 「いいじゃない、臭うの」 「自分でもさ、夏とか短パンで床に座ってて、立膝とかで

小説『こんなもの頼んでないけど?』

この小説を題材に、「プロット無しで小説を書く方法」を説明しています。 YouTube『百年経っても読まれる小説の書き方』 『こんなもの頼んでないけど?』   エプロン付きのユニフォームを着た背の低い女が、お盆から落ちそうにしながら食べ物を運んで来る。ほんとに落ちそうだが、そこはプロだから落ちそうで落ちない。女はそれらをテーブルに置く。 「こんなもの頼んでないけど?」 義樹(よしき)がそう言うと、女はこう答えた。 「でも、三番テーブルはこれ、ってコンピューターに」 「だけ