マガジンのカバー画像

小説

14
運営しているクリエイター

#NEMURENU

小説『俺の赤いネックレスとあの人の命日』

 この店には入ったことがある。店員さんの顔も覚えている。 「メンズってどの辺ですか?」  指差された硝子ケースを覗く。……やっぱりメンズは詰まらない。ネックレスならチェーンにチャームが一つぶら下がっているだけとか。ブレスレットなら丸い石が数珠みたいに連なっているのとか。  店員さんは男性たった一人だった。ドアが開いてショップに新鮮な空気が流れた。若いカップルの客が入って来て、店員さんはそちらに行ってしまう。  携帯の時間を見る。まだ大丈夫。……送られて来た住所は確かにこのショ

小説『十字架とカモノハシ』NEMURENU参加作品。

 こないだ、進路が決まらないのは世情に疎いからだ、と担任に指摘されて悔しかったから、朝の電車通学ではニュースを観ることにしていた。  急ブレーキで電車が止まる。いきなりだったから、車内いっぱいの乗客達の身体は、がくんと前にのめり、悲鳴まで聞こえた。聖華は座っていたから影響はさほどなかった。もし、何らかの事故があったら、ここにいる人達とは運命共同体なんだな。どんな人がいるんだろう、と聖華は辺りを見回す。車内アナウンスが流れる。「只今、停車位置の修正をしております……」。  ほん

小説『サラブレッド』

「オニイサンってさ、なにしてる人?」 「え、オレ? 警察」 「ふーん、いい身体してると思った……。あれ、アタシって、逮捕されちゃうの?」 「なんで? なんにも悪いことしてないだろ?」 「そうよね。あ、でもコレって、御金貰ったら売春よね」 「じゃあ、御金上げないから」 「……え、ソレはヤダ」 「逮捕して欲しいの?」 「そうじゃないけど……あんまり明るいところで見たら恥ずかしい。嫌でしょ。臭うでしょ」 「いいじゃない、臭うの」 「自分でもさ、夏とか短パンで床に座ってて、立膝とかで

小説『雄しべ達の絡まり』

あらすじ/美術大学の講師、徹は実は売れっ子の扇情小説家。あるカフェでウェイター、北原を見初め、そこに通い詰める。ネコが死んだといって号泣する北原。徹は彼に近付くチャンスをつかむ。   『雄しべ達の絡まり』 1 しばらく気になっている青年がいる。でもここに通っているのは、彼が目的ではない。このカフェはランチタイムを除けば静かだし、仕事をするには丁度いい。と、カッコよく言ってみたけど、やっぱりそれは嘘で、俺はその青年が目当てだ。初めてここに来た時から目を付けていた。もうひと月通っ