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第4章 結界のたぐい

第4章 結界のたぐい


11:57 広島駅

発車し、5つの町をめぐる8分間の小旅行。



11:58 猿猴橋町

ラガー・シャツを見送ったのとほぼ同時に
となりの母も、耳元のレイの音も消えた。

12:00 的場町

途中、猿猴川にかかる橋と大鷹。
猿と共に、結界を張っているらしかった。

12:01 稲荷町

ギフテッド、私の視力は2.5。
以ってしても、きつねは現れなかった。

12:03 銀山町

前の席のベビーカーから腕が伸びている。
娘は母の頬に触れたいらしい。届かない。

12:04 胡町

母の頬はブルー・ライトに照らされ続け
娘の嘆きと無限の愛には気がつかないようだ。

お召しのロングスカートのプリーツは
そんなにも綺麗に揃えてあるのに。



12:05 八丁堀

8分間の町はざまの旅は終わりを迎える。
私は畢竟。何を求め

この八丁堀を目指していたのか?



怖いの。高野山が怖い。
池袋にも行くことができない。

高野山はぜんたいがだめなのだけど
池袋は西の方がだめなのよ。

空海の結界の中には入れないの。

だから
ママは高野山に一緒に行くことが出来ない。

それはもう信じる信じないとか
感覚とか、そういうのでは無いのよ。

それはもう”決まったこととして”
ママがレイのママであることのように
血に肌に刻み込まれている。

池袋もたぐい。
東ならいいけれども、
レイは西にもきっと行きたくなる。

レイはおそらく、そのように決まっているのね。

レイの幼少期 「旅行先は決まり」より


母は猿猴橋に入れなかった。

母にとって、おそらく猿猴橋は
結界の”たぐい”だ。


結界を感じている身体はその際、
三重にもなる瞼を閉じ切り

薄い肩の呼吸運動だけがかろうじて
彼女を、ヒトたらしめている。


母はたぐいの認知によって
稲荷町につく前にきつねに二拝したし
大鷹と猿を見兼ねてそそくさと消えている。


一方一切の結界を感じず
猿猴橋を過ぎ、ただ
ベビーカーの娘に気を取られながら
のこりの町を通過した私。

私はすでに
八丁堀に降りたっているらしかった。

スーツケースとなかよしこよし
手を繋いで。

あぁ、もう、そんな目で見ないでよ。
金具の部分が目に見える。
光の加減で、目がより潤って見えてくる。

いいよ、わかっている。
おそらくそのように決まっている。

そういうシックスセンス
すでに諦めている。

ママは高野山に行けない。
母は猿猴橋を通れない。


はいどうも、
ノー・サラブレッドな私。

大丈夫。落ち込まないで。
総本山に行けるのは、貴女だけ。

母は広島駅新幹線口の
みっちゃんの味しか
知ることができないのだから。


★次回更新、乞うご期待!

(参考に。猿猴橋とはなんだったのか?)


追伸:
この4章は急いで書く必要があった。
近くの便利屋さんで見つけたからだ。

これを書くこととなる3時間前。

私は急かされているし、使命だと思った。
書いた。とても急いで、書いた。本当に急いだ。


ごちそうさま。

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