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1つの趣味に依存する生き方

私の母はジャニーズファンで、自分の好きなグループが出演している番組を見ること以外には、さしたる趣味も持ち合わせていない。

そのせいか、あの一件以来ずっと暇を持て余して困っているらしい。


主要メンバーの1人が事務所移籍と共にグループを脱退し、歌番組などの出演も皆無になった。
メディアの露出は激減し、彼らが出演する番組を自動で録画する設定にしていたレコーダーも、ほとんど作動する機会がなくなった。

週に1度だけ更新されるという、公式YouTubeチャンネルの大して面白いとも思っていない動画を見ることだけが、
日々のささやかな楽しみ、という状態になってしまっているらしい。


時間が余って仕方がないからサブスクで適当な韓国ドラマを見てみたり、その考察をしているYouTuberの動画を垂れ流してみたりしても、やっぱり熱がないので限界が来る。

結局仕事関連の情報収集などの雑務に没頭するほかないと言っていた。

拠り所とするコンテンツをひとつに絞ってしまっていると、その業界が崩れ始めた途端、
日常生活のどこかには必ずどうにもならない規模の空白が生じてしまう。


趣味として熱を注ぐ対象が先鋭化しすぎて、それを極端に狭い領域に限定してしまうと、

自分の中の「娯楽」がその界隈だけに思い切り依存することになってしまって、
メンタルがその業界の浮き沈みに左右されて疲弊する、というような状態に陥りかねない。


これは他人事でもなんでもなくて、今すぐにでも自分の身に降りかかりかねない現象なんだろうなと思った。

そんな母に似たのか、自分も趣味なんて1つくらいしか持ち合わせていない。
それに替わる何かなんて探そうと思ったこともない。

劇場やテレビ、YouTubeやSNSなどでお笑いを見て、笑っている時が1番楽しい。

芸人が売れかける瞬間にだけ放つ鮮烈な光、どこに行っても知名度不足でアウェー気味な空気を面白さでひっくり返してハネまくる、神がかり的な無敵状態を迎えそうな芸人たちを常に探している。


当分昔に意地を張ったまま、撤回する機会を見失ってしまったせいで、流行りのドラマや漫画やアニメなどは全く見る気になれない。

YouTubeを開いてみても、見ているチャンネルが極端にお笑い芸人のものばかりに偏っていて、
それ以外のジャンルに出現した新たな才能、斬新なコンテンツなどに出会うタイミングが全くない。


娯楽が1つの業界の中だけで完結してしまっていて、次々に流行が移り変わる現代のネット社会の流れがひとつも視界に入ってこない。

このままでは、見たいものだけを見てゆっくり過ごす時間などというものは、お笑い界が下火になった途端に消滅してしまう。


そうは言っても、現在これだけ流行り倒しているお笑いが廃れることなんてないだろう!と思い直していつも通りに過ごしていたら、いつの間にか芸人の総本山が崩落しかかっていた。

「彼がいないとお笑い界はどうにもならない!終わりだ!」と言いたいわけではない。
日を追うごとに芸人の層は分厚くなり続けている。

それでも、長らく業界の覇権を握ってきた頂点の凋落は、どう考えてもいい影響を及ぼすとは思えない。

裁判が彼の望む方向に転んだとしても、結論が出るまでには何年分かの時間が必要になると言われているし、
その期間に彼が不在であり続けるということ自体が、少なからず業界に影を落とすのは間違いないと思う。


大きな影響力を持つ賞レースの大半が、
生ける伝説である「彼」に審査してもらえて、コメントをもらえる、
という点で説得力を保っていた節がある。

「彼」は、長きに渡る芸能生活の中で、それに足るだけの実力を示し続けてきた。


この構造に関しては、
「全競技に精通した、圧倒的な権威をもつ芸人ひとりに全ての大会で審査委員長を担わせてきた従来の大会の方がおかしいのであって、
これからは、権威ある各界の専門家が自分の得意分野でだけ審査委員長をすればいい」
という意見がSNS上で出てきている。

大会の厳粛な空気感を作り出す役割の大半を担ってきた「彼」の不在が、出場者や視聴者の熱量や熱狂に影響するかどうか。
そんなものは、実際のところ本番を迎えてみないと分からない。


賞レースの決勝が、下馬評通りの結果に落ち着くことなんてほとんどない。
全く予想がつかなくて、目が離せない。

決勝直前に見た時には、優勝を確信するようなネタを仕上げていた芸人が、
その時と遜色ない出来で舞台を降りてきたとしても、会場の空気次第では下位に沈むことだっていくらでもある。


それと同じように、周囲に大して期待されていなかった芸人が、大逆転勝利を遂げる瞬間だって幾度となく目にしてきた。

現段階ではとんでもない大ごとに思えてならない「彼」の不在も、終わってみればほとんど影響しなかったね!となる可能性もあれば、

想定されていた最低ラインを大きく下回る、最悪の盛り下がり方をする可能性だって否定できない。


お笑い界の隆盛を支え続けてきた人物の退場による影響が、どこまで波及していくのか。

芸人界の不文律はどれだけ厳しく変化するのか。

近年は崇拝に近い色を帯びることもあった、芸人に対する世間の目線の質感が、どれだけ変貌するのか。

その行く末を見届けるまでは、とても新しい趣味なんて探す気にはなれない。

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