デジタル・VRワークショップ(現地)実施に関する覚え書き

先日、ある場所で子供さんたち対象のVRワークショップを担当させて頂きました。その際に現地調査等なかなか時間が取れなかったこともあり、当日トラブルが発生。
それがデジタルならではの状況だったので、状況・トラブル要因・解決法などを、自分たちの今後やこれからデジタルワークショップを企画されている方の覚え書きになるようメモしておきます。

担当させて頂いたワークショップ、非常に楽しく興味深かったのですが、その感想とは全く別の運用上のお話になります。

まとめ

・Webサービス関連のアカウント、作れるのは平均して3つまで
→主催側がアカウントを作成できない場合、講師側の人海戦術でアカウントを作成する必要がある。ただしセキュリティなどすべて講師負担になるので注意が必要
事前に当日使用するネットワーク環境を必ずチェックしておく。主催側は当日使用するネットワーク環境がきちんと接続できるかを必ずチェック。場合によってはゲスト接続用のネットワーク回線を用意しておく
・ネチケット(ネットワークエチケット)を話しても、小学生の場合は技術の楽しさに集中してか他者への配慮を忘れることがある
・VRは性質上から体験者以外楽しめないので、飽きさせない工夫が必要
・使用した機器はすべて民生用だったので、「こうしたら家庭でも制作できる・楽しめる・こういった職業がある」などといったフォローアップも重要

実施内容

■VRヘッドマウントディスプレイを使ったVR空間体験
■VRoidアバター制作体験
■iPadProを使ったフォトグラメトリ体験
■アバターとフォトグラメトリデータを使った、VRソーシャル体験

要するに、フォトグラメトリで作ったワールドに自作アバターで訪れてみよう、という趣旨です。
ご依頼先から頂いた案と実施施設の特徴から、技術体験がメインとなりました。

事前準備(やったこと)

■機器のレンタル
■各種アカウント準備(本当に大変だった)
■当日のプロセスを分かりやすく書いた資料(これが鬼門だった)
■ワールドをアップロードするためのUnityの準備(SDK含むサンプルにバグがあった)
■諸処の打ち合わせ

事前準備(やったこと) ―機器のレンタル

まず機器のレンタルは問題なく最後まで手続きを終えることができました。今回iPadProはここの「エイペックスレンタルズ」様からレンタルさせて頂き、時間的にも難しい中丁寧に対応して下さいました。最後はクロネコメンバーズを使って返却。

事前準備(やったこと) ―アカウント作成

そして今回大変だったベスト3にも入る、各種アカウント作成。
各種Webサービスのアカウント作成、二段階認証を前提とするなど近年セキュリティ上の観点から複雑になっています。主催側でアカウント作成ができない場合、講師側がプライベートで作成することになります。講師側の会社でそれを請け負ってもいいのかもしれませんが、場合によっては利用料として100万単位の費用がかかります。相手方との打ち合わせも必要になってくる場合があります。
「営利」団体・法人によるアカウント作成は営利使用と捉えられ、非営利とは比較にならないお値段を請求されるケースがあるのですね。もちろん主催側が「営利」団体・法人でも同じです。
OculusQuest2は法人用のFacebookアカウントがありますが、そのアカウントでできることは「アプリのダウンロード」だけであり、Quest2で使うアプリであってもアカウント作成に使用できない、というのがネックでした。
例えばQuest2のVRソーシャルアプリを使用する場合でも、アカウント作成の際に法人用Facebookアカウントは使えないということです。ただこれは主催側の契約によるかもしれません。

講師側のプライベート情報を使うのはリスクを伴いますが、諸々の事情から仕方がありませんでした。アカウント作成の種類や手順はこのような感じです。
使用するiPadProは予算の関係もあり4台。つまりAppleIDが4つ必要になります。作成できたGoogleアカウントは3つで、追加でAOLアカウントを使用しました。

■Apple ID・iCloud
iPadPro用。私の個人情報+スマホを使って4つ作成(同一スマホでは限界4つ)
■Googleアカウント
AppleID作成用とVRソーシャルアカウント作成用。私の個人情報+スマホを使って3つ作成(同一スマホでは限界3つ)
■AOLアカウント
AppleID作成用。私の個人情報を使って1つ作成(レンタルしたiPadProが4台だったため。Googleアカウント3つ+AOLアカウント1つで合計4つのAppleIDアカウントを作成)
■ソーシャルVRアカウント
Googleアカウントを使用して3つ作成(Googleアカウントの作成限界が3つだったため)

本当に二段階認証がやっかい。やっかいだからこそセキュリティなのは分かっているのですが…特にAppleIDはレンタル品だからなのか、異なる手順を用いると認証のループにハマってしまいものすごく焦りました。
OKだった手順はこんな感じ。要インターネット接続&スマホです。

1.事前にAppleID作成サイトで個人情報を入力、アカウントを作成。二段階認証で電話番号があるiPhoneかiPadが必要
2.「設定」アプリのいちばん上から、AppleIDとiCloudにログイン
3.AppleIDにログインしている状態で、AppStoreのアプリで使用したいアプリを選択
4.「iTunesで認証してない」的な警告が出るので、住所や支払い方法を登録する
5.使用可能に

でした。やっかいなのが2.と3.で、「設定」→「一般」で住所や支払い方法を登録しようとすると、東京都が選べない・支払い方法でNoneが選べないという状態でした。これはOSのバージョンやレンタル品だからという可能性もあります。
ただ、一度2.の段階で住所含めてすべての情報を入力しようとしたら、「iTunesで認証していない」的な警告のところでループにハマるというトラブルがありました。AppleIDへのログインで、正しいメールアドレスとパスワードを入力しているのにも関わらず。
急いでいたのでトラブル中の画面を録画していないことが悔やまれますが、上記の1.から4.の手順だとトラブルはありませんでした。

事前準備(やったこと) ―操作プロセスのマニュアル

一度講師がプロセスを見せる→やってみる、の繰り返しでしたが、躓いたときのためにプロセスを事細かに書いたマニュアルを印刷して子供たちに渡しました。
スクリーンショットも多用して該当学年以上では読めない漢字をひらがなにするなど留意もしましたが、文字にしたのは失敗だったかもしれない。今の子供たちはYouTubeをはじめ動画で情報を得ているフシがあり、文字情報よりも映像情報の方が圧倒的に分かりやすいのかも、と思った一件でした。
それが良いか悪いかは別にして。
私が制作したドキュメントを分かりやすいと言って下さった方々が昔からいたので、多少大丈夫でしょうという慢心があったのは事実です…

重要なのがVRでした。講師のレクチャーや説明書の出来は全く関係ない。最初にやってもらうチュートリアルがすべてです。
Quest2の場合、「FirstSteps」というとても優れたチュートリアルアプリがあります。時間の関係上「FirstSteps」を先にやってもらったチームと後にやってもらったチームがあったのですが、最初ではその差は歴然でした。
結果的には問題ありませんでしたが、順応力が高い子供さんだからこそ。年齢層が上の場合は「FirstSteps」をまずやってもらうのが大事で、できないなら相当するチュートリアルをアプリやワークショッププログラムに組み込むべき、という結論に達しました。

(実際のアプリでは、日本語環境の場合は日本語が流れます)

当日のトラブル ―Webサービス使えないよ編

主催側はゲストが接続できるネットワークを用意しておくこと。講師側は当日と同じ機材とシステムを使って、事前に必ずネットワークの接続を確認しておく。これがいちばん重要だと確信しました。現在のデジタル機器はもうすでにスタンドアローンではなく、ネットワーク接続前提で登録や使用を行うことになっています。
特に気をつけるのはWebサービスやVRソーシャル。これらはネットワークの状態によってはセキュリティやポートで弾かれるケースがあります。特にプライベートネットワークを使用する際は必ず事前に確認をしておきましょう。今回は区が運用しているであろうフリーのネットワークがなければ、当日ワークショップのそのものが停止するところでした(諸事情あったとはいえ本当に良くない…反省です)。
ちなみにテザリング回線も用意して頂いていましたが、VRではさすがに負荷が大きく使えませんでした。

当日のトラブル ―ネットワークトラブルによる進行停止編

当日、おそらくポートの関係からVRソーシャルに接続できない状態が発生し、その間子供たちに待ってもらう時間が発生してしまいました。私は解決のために奔走して主催スタッフさんに子供たちのケアをお任せする形に。大人は多少待ってくれますが子供たちは飽きが早いので、トラブルは最も気をつけなくてはいけません。最終的に区が運用しているであろうフリーのネットワークを使うことで進行できましたが、本当に焦りました(本来は良くない)。
これは主催側がゲスト接続用のネットワーク回線を用意しておくことで回避できます。ただ施設によっては常時ゲストさんがネットワーク接続するわけではないので、用意できないというケースもあるでしょう。その場合は速度が遅くなっても、使いたい放題のモバイルルータを複数台用意するしかないかもしれません。ですがそのぶんVR機器をつけている間に待ち時間が発生するので、子供さん対象のワークショップで本当に良いのかは怪しいです。ちなみにモバイルルータでViveを使ってバーチャルキャストを数分プレスすることができました。
あとは技術スタッフが問題に対応している間、子供たちを飽きさせない話術が得意なスタッフの力も大きいです。

当日のトラブル ―ネチケットを理解してもらうの大変だ編

これは講師と参加者さんの親密度に関係する話かもしれないので厳密にはトラブルではないかもしれませんが、留意事項としてメモしました。

当日、「VR空間にいる自分以外は"他人"だから、自分がやられたらイヤなことはしないでおこうね。傷つけるようなことを言ったり殴ったりしないでね」的なことをネチケット(インターネットエチケット)として伝えていました。が、残念ながら講師をたたくなどのバーチャル暴力行為が発生してしまったのです…
「アバターはキャラクターではなくて、だいじな"その人"」を繰り返し伝えていただけに、私個人としてはショックではありました。叩くということはそれを理解していないということですからね。着ぐるみを叩くのと同じ原理・心理か、VRがもたらすインタラクションが楽しくて気遣いまでいかなかったか…

当日のトラブル ―VRは1台につき1人しか体験できない編

イベント展示にも関係するお話です。
VR機器はその性質上、1台につき1人しか体験できません。その人が何をやっているのか・何を見ているのか分からないので、まわりはつまらなく感じるという欠点があります。
それを防ぐために展示会などではよくVR画面のミラーリングを行いますが、それでも子供たちは飽きが早い。他の作業をしてもらうか話術が得意な講師・スタッフが場をつなぐことが必要になってきます。

最後にフォローアップを

今回はすべて民生用機器を使用、アバターやワールド制作も無料のものを「あえて」使用しました。本来は民生用機器を触ることができない子供たちこそ体験すべきと思いますが、未来のクリエイターを増やすのも講師の仕事のひとつです。なので無料アプリを使ってこういうことができるよ、やプロもそのアプリを使ってこういうことをしているよ、という紹介が必要だと感じて最後のまとめでお話しました。

デジタルワークショップ実施にあたってのチェックリスト

最後に講師側のチェックリストを作ってみました。足りない部分はコメント等でご指摘頂けたら幸いです。

●安全面に関して
・ワークショップ実施空間は子供たちの安全性が確保されているか
・VR機器を体験する場合、ガーディアン境界線内部は安全な空間か
・主催側がワークショップ保険に入っていることを確認したか
・VR体験時間やPC操作時間は適切か

●運用面に関して
・ゲストが接続できる、安定したネットワークはあるか
・事前に当日の機器とシステムを使って、ネットワークの接続チェックはしたか
・当日の環境とネットワークを使って、使用するWebサービスやVRソーシャルの動作チェックはしたか
・使用アプリやマシンがきちんと動くかチェックはしたか
・電源確保は大丈夫か
・講師がオンラインにもいる場合、マイクやスピーカーは大丈夫か。ちゃんとオンライン講師側⇄現地で音声や映像が伝わっているか

主催側は会場の状況や組織によってチェックリストが変わってくると思いますが、ひとまずこれだけの確認をお願いさせて頂きたいです。

●安全面に関して
・ワークショップ実施空間は子供たちの安全性が確保されているか
・ワークショップ保険に入っているか

●運用面に関して
・ゲストが接続できる、安定したネットワークはあるか
・講師に事前に当日の機器とシステムを使って、ネットワーク接続チェックを行ってもらったか。もしくは主催側のスタッフが行ったか
・講師に事前に当日の環境とネットワークを使って、使用するWebサービスやVRソーシャルの動作チェックはしてもらったか。もしくは主催側のスタッフが行ったか
・主催側が貸し出す使用アプリやマシンがきちんと動くかチェックはしたか
・電源確保は大丈夫か
・講師がオンラインにもいる場合、マイクやスピーカーは大丈夫か。ちゃんとオンライン講師側⇄現地で音声や映像が伝わっているか



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