xRエンジニア・デザイナーと哲学(学問)の距離

xRは総合格闘技

泥臭い実務・実装に近ければ近いほど、哲学(学問の方)から遠ざかっていく、という現象を今更ながら理解できるようになってしまいました。あれほど哲学や社会学をご専門とする方々をお呼びしておいて、あまつさえ哲学を疎かにすることについてケンカまでした私ですらも。
理由はふたつ。例えばxRは総合格闘技でやることが多すぎること。そしてもうひとつはxR業界のひとつの構造です。

※これから先の「哲学」は、基本的に「哲学という学問分野」を意味することにします。ポリシーなどの「哲学」とは異なる意味として使っています

単純にかけてる時間がないということ。xRは先端分野のひとつですから、アイデアの元となる哲学の前に、実装部分での新規アイデアのために国内外の新規論文やニュースをチェックする。かつSDKやフレームワークが出ていればそれを試す時間が。論文であれば、近い形を自分自身の手で実装してみる(少なくとも実務レベルでの実装について考える)時間が必要になります。
R&Dと呼ばれる研究+実装分野ではそれが最低限必要になってきます。頭がSSD+京CPUな方とペタレベルの記憶領域をお持ちの方は、さらにアイデア創発のために知識を仕入れて咀嚼する時間が取れるのでしょうが、悲しいかなHDDかつUSBメモリな私の頭ではかなりいっぱいいっぱい。以前のように月50冊関連書籍を読むなどという暴挙はできなくなってしまいました(その分以前よりできることはかなり増えたのですが)。

もちろん会社やチーム制作の場合は分業制なので、自分の得意とする範囲のことを深めればいい。でもxRは多様な技術や思想を含む…なりより世界をまるごと作り直すことにも等しいのですから、技術だけでも必要なものは膨大です。それを広く浅くでも知っていないと、作るモノの範囲が狭まってしまう。新進気鋭のベンチャーであれば、なおのこと新規サービス・開発の可能性を広げるために必要なものは多くなります。
もちろんモノ作り全般で広い知識が必要ですが、ことxRは構成要素が多い。例えばAIもエージェントとして絡んできますし、世界を作るために必要なありとあらゆることがxRには絡んできます(だからスゴイとかそういうことではないです)。

デザインやエンジニアリングにとって、哲学は「その時代の人たちの世界の捉え方リスト」

新規アイデアや研究のために哲学は必要。それは痛いほどよく分かっている。哲学は個人的に、哲学者の目から見て記述された世界の構造を思想としてまとめたものだと思っています。なので「その時代の人々が世界をどのように見て考えているのか」が記述されている哲学は、アイデアの宝庫。哲学研究者さんにこう言うと刺されるかもしれませんが、少なくとも哲学をデザインに活かす上でのひとつの捉え方です。同様の理由で「物語」も役に立ちます。
マーケや営業・企画さんはアイデア創発のために哲学や物語を利用することはあると思うのですが、実際にモノを作るxRエンジニアやデザイナーはその余裕を「取らないと」ない。総合格闘技で、ただの実装であっても学ぶことが新しく常に存在する状況では「哲学なんて実装に必要ないからいらないよ、なんでxRのトークイベントで哲学の話するんだよ」という意見も仕方ないと感じるようになりました。
この発言は「自分のやっていることに異分野を関連づける想像力が足りない」と告白してしまっているのか、それとも忙しさから哲学を応用してる時間がないよ(今回のnoteのお話)なのかは分かりませんが…

お願いです、企画さん。テクノロジーについて理解して

そしてもうひとつはxR業界をある面から見たひとつの構造です。
今はこの状況下も手伝って自社サービスがプラスに転じている企業さんも多いですが、基本的に「エンタメではない」xRのほとんどがBtoBと言って良いと思います。基本お金があまり回っていないのですね。そうなると、例えば専門チームを持たない大企業さんから企画を頂き、専門家集団のxR会社が実装するケースも出てくる。そうなると他企業さんの「こうしたい」という思いを専門家が実現することになります。そこで相手が専門家を「コラボレーター」として接するのか、「自分たちの思いを実現してくれる人たち」と捉えるかで、専門家のその後の(心理的な)運命が真っ二つに分かれます。
お仕事関連ではないですが、「兵隊」とハッキリ言った方もいましたからね。私いまだに覚えていますよ…
例えば「私たちではxRはあまり分からないから、作りながら一緒に考えていきましょう」というコラボレーション前提の良心的な企画は別にして、すでに企画サイドで意義や意味、効果などが決まっている場合は…悲しいかな、哲学や社会学が必要とされる面はありません。そのテクノロジー・インタラクション体験に適切なUI・UXを無視して作られた仕様書に毒づきながら、淡々と実装していきます。
話は変わりますが、最近話題の「SFプロトタイピング」は特定の立場の人にしか効果がないと個人的に思っている理由が、上記でもあります。
もちろんその中でも何とかクオリティを上げようと提案はするのですが、企画の方がOKを出さないと先に進むことができません。

企画される方の思いはものすごく分かるので、何とか具現化すべく頑張るのですが、そこには哲学や社会学が絡む余裕はありませんでした。あるのは「個人の思い」、ただそれだけ。だから企画さん・PMさん・ディレクターさんこそが、哲学や社会学を深めるべきだろうと思うようになりました。もちろん、新規事業アイデア出しのためにもエンジニアやデザイナーに必要だと思うのは変わらないのですが、まずは企画系のお仕事に携わる方がより深めて、xRならxR、AIならAIについて分かって欲しい。デザイナーからのひとつのワガママです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?