見出し画像

小さな声を聞く


病院から帰る車の中で、娘はでたらめな歌を歌っていた。老犬に歌って聴かせてた。


笑っていても、心の中は大荒れな日がある。昨日がそんな日だった。愛犬のモンちゃん(本名)が肺炎で危篤になって数日が経ち、いよいよ具合が悪くなっている。いよいよ痩せて足腰が立たず寝たきりになりつつある。いつも私の呼びかけに、少しだけ尻尾を振って応えていてくれたけれど、寝ているからか、あまり動かせなくなってきた。命の炎はすぐに消えたりしないとは思うものの、やっぱり心配で、昨日も娘のハトちゃんと一緒に動物病院に連れて行った。お医者さんは血液検査の結果に首を横に振って、「ほぼ全部の検査項目が異常値だね」と言った。そして抗生物質や栄養剤の注射をしてくれた。積極的な治療法はもうない。

帰り道、ハトちゃんはずうっと歌を歌って老犬に聴かせていた。

私は、心の中が一人走馬灯状態で混乱してしまい、モンちゃんに何をしてあげれば良いのか具体的に浮かんでこない。子犬の時のモンちゃんや出産した時のモンちゃんがフラッシュバックしてきて心がいっぱいになってしまうから。そんな母を尻目にハトちゃんはどんどん自分のしたいことを見つけてモンちゃんに関わっている。モンちゃんの眠るケージに自分のおもちゃを差し入れに行ったり、ただただ抱っこして話しかけたり。

昨日、私が家事の合間に、「宿題やって」「お風呂入って」「脱いだもの畳んで」って指示出ししている声はきっと元気がなくて沈んでいたと思う。玉ねぎをまな板でトントンと切りながら、気がつくと考え事をしていて止まっていた。そのタイミングでハトちゃんがお風呂からあがるって呼んだ。

ピロピローン♪お風呂で呼んでいます

ハトちゃんの髪を拭いてあげながらも頭の中ではモンちゃんのことをぐるぐると考えている。すると唐突に、ハトちゃんはしゃがんでいる私の頭をぎゅむっと抱きしめたのだ。優しい声で「お母さんよしよし」って言われた。私は「あはは。ハトちゃんなーにー。」っておどけながら、実はちょっと泣いていた。

思えば、ハトちゃんは、自分より小さな子や小さな生き物や年寄りにうんと優しい。はっきりと助けを乞われなくても、その小さな声を心で聞き取っている。学童でも春休みに入ってきたばかりの新一年生と行動を共にしていた。いつも泣きべその男の子がいて、その子と手を繋いでいたらしい。今日も、動物病院で注射を三本もチクンとされたモンちゃんに「痛くなあい〜。平気〜。だいじょお〜ぶう。」ってでたらめな歌を帰りの車で歌っていた。

そんな子だから、お風呂上がりに、私の心から漏れ出てしまった小さな声を聞き取ってくれたのだろう。ハトちゃんの少し湿った鳩胸は、ほかほかと温かくていい匂いがしていた。私の小さな声は温められて、ホットケーキの上にのせられたバターが溶けてゆるくなるように、ほどけて、栄養たっぷりになって私の胸へ返って行った。





ハトちゃんとモンちゃんのおはなし↓


ハトちゃん(娘)と一緒にアイス食べます🍨 それがまた書く原動力に繋がると思います。