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ほんよみの、おもい、おもい。

私は、本読みである。
活字が好きだ。

フィクションもノンフィクションも読む。
紙の本も電子媒体の本も読む。
note も読む。

私は、本気で図書館に住みたいと願う人である。
林立する書架の間をさまよって、読まれるのを待っている本達が息づいているのを感じていたい。
暇さえあれば『世界の夢の図書館』という写真集を飽きずに眺め、
「夜、だれもいなくなったら、あの階段の影に寝袋を置いて、ロウソクを灯して本を読み始めよう」
とシミュレーションしている。

私は、特に、物語が好きだ。

だからハトちゃん(娘:仮名)が生まれた時、
これから初めて出会っていく物語の世界を、
私もまた追体験できるととても喜んだのだ。

月光を浴びて、ずっと向こうの方まで地面を覆い尽くすニョロニョロ
ジョバンニとカムパネルラとともに鉄道の揺れを感じ、木の座席の固さに眉をひそめる
時間泥棒とカメの息詰まる攻防
バスカービル家の犬の息は臭いに違いない
コロボックルは本当にいるかもしれないから、ピアノの蓋を開けてちょっと待ってみる

私がハトちゃんと同じ小学3年生の時には、図書室に存在する本のタイトルと配置を大体把握していた。そして、教科書を配られたら、その日のうちに読んでしまっていた。
私は、「授業中にまで、本を読んでいて困ります」と通信簿に書かれてしまう子供だった。

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最初は不透明なモヤモヤだった。

どんどん濃くなって、粘性が高まった。

だんだんと硬くなる。

大きくなる。

喉の奥の奥の方に、ずっとある。

重たくそこにある。

飲み込めないし、出てもこない。


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ハトちゃんには識字の障害がある


定型発達では、保育園の年中さんくらいになると、女の子達はひらがなを覚えていて、『お手紙』をプレゼントしあう。
毎日もらってくる色とりどりのお手紙。
折り紙の裏に書いたもの。
小さな小さなレターセットに書かれたもの。
シールがデコってあるカード。

でも年長さんになっても、いっこうにハトちゃんは読めないし書けなかった。

字って、なんとなく過ごしているうちに覚えるものと思っていたが、ハトちゃんは違っていた。その後、診断がつき、専門施設で言語療育を年長さんから小学1年生までずっと受けた。

情報を伝達し処理する脳の機能がスムーズに動いていないことで引き起こされる障害なので、本人の努力と周囲の適切なサポートがあっても、文字がなかなか入っていかない。繰り返しやっているのに、今でも、長い文章が読めない。


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ある日、ハトちゃんのランドセルの底からこれでもかというくらいクシャクシャのプリントが出てきた。

そんなことはよくあった。
授業参観やPTAのプリントは大抵、ランドセルの下のほうにモジャッと入っていた。
そしてその場合、適当に突っ込まれて他の教科書やペンケース達から押されて蛇腹状になったりハリセンみたいになったりしていた。

でも、そのプリントは違った。
グシャグシャって「手で」やったんだ。
ハトちゃんが、強く強くぎゅうっと握りしめたんだ。

開いてみる。

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ペアカード

って書いてある。
それは、親子で記録する読書カードだった。

私は、私の心をぎゅうっと握り潰されたような気持ちになった。

ハトちゃんの小学校生活において、

音読の宿題は苦しみでしかない。

読書カードも苦しみでしかない。

だから、読書週間に学校から
『親子で読書して読んだ本の名前と感想を書いてこよう』
と言われて配られたプリントは、ハトちゃんにとっては苦痛でしかなかったのだ。
困ったハトちゃんはプリントを握りしめたのだろう。

私の心も握りしめられた。


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ハトちゃんが成長した未来において

「あの本読んだぁ?」

沼を一緒に体感する仲間たちは、

いないのか?

作れないのか?

鬱々と本読みの重い思いが降り積もっていくばかりだった。

思いは塊となってのどをふさいだ。


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その思いが溶けだす日は突然にきた。
夕方のスーパーマーケットで。

スーパーでレジの列に並んでいる時、両手をつかまれてハトちゃんに言われた。

あなたを、わが子同然に育てるつもりよ!

何の脈絡もなく。

ポカンとする私。

ハトちゃんの口元には、ご機嫌な時に現れるエクボがくっきり。それを刻んで、満面の笑顔で、ハトちゃんは言った。

あなたを、わが子同然に育てるつもりよ!

これはセリフ?どこかで?
ハッとした。
毎週見ているディズニーチャンネルの洋コメディのワンシーンだ。

ハトちゃんの顔つきは、
「今、自分は面白いフレーズを言ってる。」
と分かっている人の顔だ。
再現しているんだね、
自分が面白いと思ったシーンを。

あぁ、私はなぜ、ハトちゃんは物語を味わえないと思い込んでしまったのだろうか?
私は自分を恥じた。
ハトちゃんは、テレビドラマからもちゃんと吸収していた。ストーリーとその面白み。


そういえば、こんなことも言っていたな。
頭によみがえってきた。

未来少年コナンのダイス船長について一言。

お母さん。この人、いい人だよ多分。

これまで、善と悪しかない世界に生きてきたハトちゃん。
悪の組織側にもいい人がいると気づいた?
分かってきた?

大丈夫、味わっている。
物語を。

私(の世代)は、本や漫画、新聞などの紙媒体から文字で知らない世界につながって、漢字の熟語や言い回しを真似しながら覚えてきたものだ。

今この世界でハトちゃんは、本を読むように、呼吸するように、映画、洋ドラマ、YouTubeを見ているらしい。

そこから

かっこいい言い回し
心惹かれる表現
身振り手振り

ハトちゃんは自分から吸収している!
物語の世界を楽しんで味わっている!


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読書週間のペアカードをどうしたか?

ハトちゃんお気に入りのスターウォーズシリーズから3本見てもらって、物語を楽しんで楽しんで楽しんで、その感想を言ってもらい、それを私が書き留めた。

ハトちゃんは物語を映像で理解する脳を持っているらしい。

彼女と物語を共有するには、彼女に適したコンテンツを工夫して私が作ればよいのだ。私は、たった一人の視聴者に対してオカンYouTuberになることも辞さない。

ハイ!おかあさんでーす。

で始まる、物語を伝えるYouTubeを作ろうと、あの夕暮れのスーパーで私は思った。


おもい、おもい、とけた。



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ハトちゃん(娘)と一緒にアイス食べます🍨 それがまた書く原動力に繋がると思います。