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大いなる意思 #匿名超掌編コンテスト参加作品

 斜めの光が静かに差し込むエントランスに立っていた。
 透明な光は少しだけオレンジがかっており、その中をきらきらと雲母のように光る埃が舞っている。夕方へ向かう前の、この時間が一番好きだ。

 頬に光を受けながら大理石の階段を登る。その部屋の扉が見えてくる。寄木細工の廊下を歩く間に、胸がざわめき始めた。ずっと誰かの視線を感じるのだ。早く部屋に入ってしまおう。

 扉を開け数歩あるくと、そこは森だった。「え、何?」緑の柔らかい草を踏みしめて立っている私。振り返ると、扉の向こうに今まで歩いてきた廊下が見える。

 思えば配属された初日から、周りの司書たちはみんななんだかおかしな態度だった。「本当に採用になったら」とか「気に入られるといいね」とか「あなたは、試される」とか言ってくるのだ。

──コレのことだろうか?

 目の前には、蔦が垂れ下がる苔むした扉がある。
頭の中に声が聞こえてきた。
「お前は本当にわたしが好きなのか」
「わたしの歴史に組み込まれる覚悟があるのか」
気難しいお年寄りのようで、まだまだ小さな子どものような、『図書館』の声。

 意を決して息を大きく吸い込むと、私は扉を開けた。


記念に残しておきます。
500字の難しさを感じました。そして、無限の可能性も。板野さん、ありがとうございました。








ハトちゃん(娘)と一緒にアイス食べます🍨 それがまた書く原動力に繋がると思います。