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ここはどこ、わたしはだれ


先日、ある事情があって夜ほとんど寝ることができなかった。正確には、寝る時間を確保することが叶わなかった。その夜にひと続きで繋がっている朝、私は猛烈に眠かった。全身が生物として睡眠を要求していた。頭や肩や首の後ろはずっしりと砂袋で押さえ込まれているかのように重たい。そのくせ、視界は何故かきらきらしていて現実感がないのだ。ナチュラルハイってこういうことなのかな、と思う。そして、普段どおり娘を起こしにいった。


気がついたら、雑踏の中を歩いていた。
視界には人の足、足、足、足。
革靴、パンプス、スニーカー、サンダル。
黒、白、赤、黄、茶。
自分も足を無意識に動かしている。階段を上っている。右、左、右、左。私の足にはいつの間に履いたのだろう白いサンダルがくっついていた。階段を上る足どりはふわっとしている。ここにいないかのような。周りをそっと見回すと、皆一様にどんどん歩いてこの階段の頂上に登り詰めようと躍起になっているようだった。階段を上り終わる。するとそこは、次の目的地に向かうための場であった。視界の手前から向こうの方までぽつんぽつんとホームの番号が掲示されている。



そもそも、私、どこへ行きたいのだろうか?

この私という容れ物をここまで運んできたらしい、けど。

どこにも行きたくない。

私は、だれ?

えと。何してたんだっけ。


蒸れたマスクの中で、唇を舐める。うわ唇の内側に鈍痛が走った。前日に間違って噛んでしまった所が、口内炎に育ってしまった。ああ。患部を舌でなぞる。小さな2mmくらいの患部はちょっと凹んでいて、つつくとジンと痛かった。そこにだけ私が存在していた。痛みそのものが私だった。


大きな駅。通路の脇で立ち止まる一人の女。
梅雨の只中にあって雨が降らず日光がふんだんに射す晴天のある朝。


私は、私を、失っていた。


I was lost.





ハトちゃん(娘)と一緒にアイス食べます🍨 それがまた書く原動力に繋がると思います。