八幡の藪

シゲと僕は、神社の鳥居に抱きつきながら、国道の先の『八幡の藪』を眺めていた。
「あの中に、虹色の玉虫がたくさん居るんだって。シゲ、知ってた?」
「ああ…捕まえたいなぁ」
「でも、入ったら最後。二度と出て来れないって、噂だもんね…」
「それは、本当の話じゃよ」
「ワッ!」
いつの間に、ぼうぼうの白髪頭でしわしわのお爺さんが立っていた。
「あの藪はの、平将門の祟りがあってのぅ、かの水戸光圀が迷い込み、やっとの思いで出て来たあと禁足地にしたんじゃよ!」
「え?」
「どういう事?」
言葉が難しくて、僕とシゲはポカンとした。
「絶対に入っては駄目って事じゃよ!さあ、二人とも、手を出しなさい」
お爺さんは、虹色の玉虫をそれぞれの手に乗せた。
「お爺さんは誰なの?」
「藪の守り神じゃよ…」
そう言ったあと、すっと姿が消えてしまった。
僕とシゲは、しばらく黙ったまま、手の上の虹色に輝く玉虫を眺めていた。