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📖①『ゴミ屋敷を救え!社会復帰への道』第6話:妄想?

今、僕の隣で寝ている桜木さんは、僕が精神病の妄想で作り出したあの「桜木真琴」なのだろうか。

前回

#木琴コンビ #深琴と真琴の琴棋書画
#ゴミ屋敷 #精神病 #社会復帰への道 #創作エッセイ #作家の旅  




妄想?

2023/12/26(火) 夜中 深琴の部屋

深琴
「(寝れない)」

桜木さんと添い寝をすることになった僕だったが、誰かと一緒に寝るなんていつぶりだろうか。隣から感じるぬくもりや寝息に、どこか懐かしさを覚えながらも、やはり狭いシングルベッド。僕は眠れずにいた。

深琴
「(そういえば、桜木さんって)」

すーすーと眠る彼女の方を見て、僕はある疑問を抱いていた。

深琴
「(本当に、僕の妄想じゃないだろうな?)」

桜木真琴、それは僕が精神病で狂っていたときに生み出された、悲しき妄想のはずだった。母さんや兄さんとも話しているから、僕だけに見えているわけではないと思うのだけど……。

ぷにっ。
桜木さんのほっぺたをつついてみた。柔らかい感触が伝わってくる。

深琴
「(そもそも、僕が妄想で生み出した桜木さんってどんな人だったっけ……)」

僕はもう、あの時の記憶が曖昧になっていることに気がついた。

深琴
「(あの話も書きたいし、近いうちにログを確認しないとな……)」

精神病で狂っていた時のエキセントリックな体験を、僕は何かしらの創作に昇華したいと思っていた。たとえそれが、

深琴
「(ははっ……読むのが怖いや)」

自らを苦しめることになろうとも。

中の人
「あの話とは何なのか?以下のマガジンで読めますに"ゃ🐱」



妄想じゃない

2023/12/27(水) お昼 深琴の部屋

気づけば、僕は寝ていたらしい。起きたらお昼になっていた。

真琴
「全く、深琴ってば食事も取らずにいつまで寝ているの?お母様がすでに用意してくださっているわよ」

キッチンの方から香ばしい匂いがしている。今日のお昼はベーコンエッグか。


「本当よね~。真琴ちゃん、もっと言ってやって!」

母さんが早く食べなさいとばかりに便乗してきた。ご飯を作ったのに食べないと母さんの機嫌が悪くなる。僕は寝起きで食欲が落ちていたが、ありがたくいただくことにした。


「そういえば、深琴。あんた、日商簿記の合格証書失くしたって言ってたけど、商工会議所には連絡したの?就職の時使うなら、早めに電話しときなさいね」

そういえば、そうだった。僕は大学生の時に日商簿記1級に合格しているのだが、精神病で狂っていた時に恋人と住んでいた家から実家に戻る際、合格証書を入れたファイルを紛失してしまったのだ。たぶん、家のどこかにはあると思うのだけど。

深琴
「分かった、今日電話してみるよ」

……

商工会議所
「葛木深琴さんね。確認取れました。確かに合格されていますね。合格証明書を発行しますので、来月以降取りに来てください」

良かった。日商簿記に合格したことさえも僕の妄想だったら、どうしようかと思った。ほっと一息ついたところで桜木さんと目が合った。やはり、彼女は……


複式簿記

2023/12/27(水) 午後 深琴の部屋

真琴
「深琴!何をしているの?」

商工会議所に確認も取れたし、僕は溜まっていたレシートをアプリで記録することにした。

深琴
「家計簿をつけているんです。といっても、僕の個人的なものですが」

真琴
「なら、お小遣い帳って所かしら?あら、複式簿記でつけているのね」

深琴
「分かるんですか?」

これでも元社長秘書だからね、と桜木さんは笑ってみせた。

真琴
「あら?深琴……アナタ……」

なんだろう。何か入力ミスでもあったかな?

真琴
「収入に対して書籍代が異様に高いわね。なのに、そんなボロボロの服を着ているの?この前の外出時もスッピンだったし……。もう少し身なりに気を使ったら?」

うっ、痛い所をつかれてしまった。本のセールがあるとつい買っちゃうんですよね……読めもしないのに……。

深琴
「身なりは、そうですね。先日のリワーク、思った以上に僕以外の方はちゃんとした身なりをしていて、少し恥ずかしかった所はあります。化粧は、化粧品とコンタクトレンズが高いので、毎回は難しいですね。許してください」

僕はメガネをくいっとさせて見せた。しかし、驚いた。桜木さんがまさか簿記の知識があるなんて思ってもみなかった。どうやら、桜木さんが元居た鏡の世界は、魔法が存在することを除けば僕たちの世界にかなり近いもののようだ。

真琴
「私の化粧品代はケチらないでちょうだいよ?お肌と髪は女の命なんだから」

昨晩こっそりつついたほっぺたの感触を思い出しながら、まあ、確かになあ、などと思った。セルフネグレクト気味でろくに手入れしていなかった僕の肌と髪はボロボロだ。桜木さんの綺麗な肌と髪を僕と同じ状態にするのは、もったいないだろう。

深琴
「そこまで高いものは買えませんが、善処します」


作家の旅

同日 夜 深琴の部屋

何気ない日常が過ぎていく中、僕は先日買った『作家の旅 ライターズ・ジャーニー』を手に取った。クリストファー・ボグラ―さんが書いた、物語創作の聖典と名高い本だ。

厚さ約4cm、ページ数は565ページ+αの、かなり読み応えがありそうな本だ。

真琴
「何か書くの?」

深琴
「僕が精神病で狂っていた時の話を、小説にしたくて」

真琴
「ふーん、面白そうじゃない。アナタのお話、私も読みたいわ」

桜木さんは家にいてやることもあまりなく、暇そうだからな。彼女の暇つぶし程度のお話が書ければ良いかもしれない。

真琴
「ねえ、私のこともお話に書いてよ!」

そうだな。ある日突然、鏡の世界から来たお嬢様が、ゴミ屋敷の住人と生活する話、悪くないかもしれない。あの話とは別のものとして書きたいな。

真琴
「じゃあ、そのお話は私達の冒険の書ね!」

深琴
「あはは、世界でも救うんですか?」

僕は冗談のつもりで先日見た夢の話をしてみた。

真琴
「世界を救う?そんなことより自分を救いなさい!慈善活動は、この家をどうにかしてからよ!」

正論で返されてしまった。まずは、自分。それから他人だな。

英雄はしばしば、なじみがないのに奇妙なほどなれなれしい、ときにはひどく威嚇してくる相手に出会う。

クリストファー・ボグラ―著
『作家の旅 ライターズ・ジャーニー』P.13

次回

登場人物紹介

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