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忘れられない恋

22歳の春、どうしようもなく好きな人がいた。

その人とはインターネットで出会った。当時わたしのホームページにBBS(掲示板)があり、そこに書き込みをしてくれたのが最初。名前の横に貼られたリンクに飛ぶと、彼が友人たちとやっているホームページに飛んだ。メンバー写真で彼の名前を探すと、タイプの顔の男の子が写っていた。「タイプの男の子に写真を褒められるってうれしい」と思ったものだ。

BBSで何度かやりとりをして、メールをするようになった。下心はなかった。単に、BBSではできないような、一歩踏み込んだ、長い言葉のやりとりをしたくなったのだろう。メールをくれたのは彼だった。毎日というわけでもなく、1週間に一度くらい彼からメールが届き、また1週間後くらいに返事をする。そんなペースだった。しかもPCメール。どこに住んでいるのかも知らなかったし、聞こうともしなかった。

だんだんと深い、自分の内面の話をするようになって、会ったこともない彼に、誰にも話したことのないような話をした。

「わたしは救われたい」「誰かに好きになってほしい」そんな感じだったと思う。当時まだ誰とも付き合ったことがなく、男の子に好かれた経験のなかったわたしにとっては切実な悩みだった。

その後のやりとりで、彼が「会って話をしてみたい」と言ってくれて、会うことになった。彼は東京の、当時わたしが住んでいた隣の駅が最寄りだった。わたしも会ってみたいと思うようになっていたからうれしかったし、初めて会った日に好きだと思った。半日も一緒にいて、それでも離れがたかった。初めて家まで送ってくれた男の子だ。

それから何度か会ったが、自分の気持ちを意識すればするほど彼の気持ちが気になり、会っていても楽しめなくなった。きっと両思いだったと今ならわかるが、経験のないわたしにはわからなかったのだ。楽しめない気持ちは彼にも伝染し、結局その恋はうまくいかずに終わる。

そのうまくいかなかった片思いを、わたしは何年も引きずった。あんな気持ちにはもうなれない。あんなに好きな人はきっともう現れない。本気でそう思った。彼がくれた言葉に最高にときめいたし、今でも忘れられない。自分に興味を持ってくれた好きな人は、彼が初めてだったから。

でも最近気づいたことがある。わたしが彼を特別に思っていた理由は、その”初めて”が理由じゃなかったのだ。

わたしは親に何かを相談した記憶がほとんどない。子どもの頃から「心配かけてはいけない」「いい子でいないといけない」と思っていたし、親から悩みを聞かれたこともなかった。小学校や高校の頃、学校に行きたくないとずる休みしようとしたことがあるが、母は理由も聞かずに怒り、無理やり学校に連れて行こうとした。

そういうことがあったせいか、親には相談できない、悩みは言えないと思っていたのだろう。当然、それはわたしを苦しめていた。大人になっても自分の気持ちを外にうまく出せず、突然感情を爆発させてしまうことは今でもある。

そんなわたしに、彼はこう言った。「もっと奥の方が見たい」と。親にすら悩みを打ち明けられない、聞いてもらえないわたしにとって、彼は初めて心の中を見ようとしてくれた人だった。ただの興味じゃない、もっと深いところ。それがとてもうれしかった。彼のことが特別なのは、そのせいも大きいのだろうと思う。

結局、一番言いたかった気持ちは言えなかったけど。今でも、あの日に一瞬だけ戻りたいと思ったりするし、宝物のような恋だ。

もしもわたしがアダルトチルドレンじゃなく、自分に自信があって、恋愛経験もある女の子だったら−−−。そんなことを考えたりもしたけれど、違ったから彼に出会えたし、好きになったんだと思う。アダルトチルドレンでよかった。なんて言いたくないけれど、彼と出会えたことは、一生忘れたくない大切な出来事である。

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