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穿て、七つ星 #1200文字のスペースオペラ

 アルファ・ケンタウリ星系、ホーキング市。灯りも疎らな旧国際宇宙港地区上空を飛翔する影あり。ショショーニ型機動火点が七機、それらを統括する有人フロートビークルが一機。住民たちは夜空を見上げ、またもや始まった厄介事に巻き込まれないことを祈りつつ、暗がりへ消えてゆく。

 群の主、「傀儡師」は球面モニターのあちこちに忙しなく視線を飛ばし、標的の姿を探す。一人消すだけで500万クレジット。どうにも臭い。だからこそ過剰にも思える戦力を投じたのだが。
 胸騒ぎを打ち消すようにアラームが鳴った。三号機からのデータには裏通りを走るトレンチコートの男。見つけた。すぐさまターゲット情報を共有すると、忠実なる猟犬たちは宙を駆ける。

 たちまち男の背中が射程内に入る。だが彼は焦るでもなく腰に手を伸ばし、得物を抜き放った。黒く輝く銃身、マホガニー風のグリップ、クラシカルなリボルバー拳銃である。「傀儡師」は怪訝な表情を浮かべた。そんなもので何ができるのか。

 ハンマーが起こされ、シリンダが六分の一回転。刹那、振り返りざまのトリガー。
 ごう。青白い閃光が迸り、最も突出していたドローンに直撃。耐ビームコーティングはコンマ数秒と持たず剥ぎ取られ、炎の花が咲く。オゾンと焼けたプラスチックの香りがたちこめた。
 間髪入れず二射めが放たれ、またもや一機が撃墜。その余波でもう一機がウイングを破壊されスピン、それに後続が衝突し、諸共墜落する。「傀儡師」は目を剥いた。
 追撃が鈍った一瞬、トレンチコートの男は抜け目なく廃倉庫に飛び込んで身を隠す。

 そんな事で隠れたつもりか。残る三機による掃射が始まった。12mm重粒子機関銃から放たれるパルスビームの雨が廃屋を見るも無惨な姿に変えてゆく。
 屋根の中央が支えを完全に喪い崩落したその時、粉塵を吹き飛ばして再び光が閃いた。指揮車を掠めて伸びた奔流が、六号機の機体を掬い上げるように切り裂き、真ふたつにする。続く射撃が一号機を真正面から捉え、竹輪めいた滑稽な形のジャンクに変える。回避行動に移らんとした五号が、過たず貫かれる。
 最後の一機が爆散する時、「傀儡師」は炎に照らされた男の胸に、何かが輝くのを見た。星のバッヂ ―今は無きGICPOのシェリフスター。彼はこの時初めて誰を相手にしていたかを理解した。
 一射ごとエネルギーラウンドを一つ使い潰す、酔狂極まりない銃、そのたった六発で仕事を全うする男。地球文明圏、最後のシェリフ。“七つ星”のプラームス・ウェストリバー。
 そして今、六発めの星が放たれようとしている。

「ハ、ゴールドマンの旦那も人が悪い」

 今更ヤツへ復讐しようとするだなんて思わないじゃないか。
 彼の意識は光に融けてゆく。これがオリオン腕州に悪名高きドローン使いの最後であった。

 そしてこの戦いが、七つの星系を巻き込んだ、ウェストリバー最後の仕事の幕開けでもあったのである。

〈つづく/1198字〉

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