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星鮮士の刃

 蟹座55番星・e惑星。果てしなく広がる荒野の真ん中、俺達は全長13m級の「カルキノスダイオウガニ」と対峙していた。

 奴はこの惑星の固有種で、巨大な体躯に強靱な甲殻、戦闘ロボットの装甲板すら圧壊させうる鋏を持つ。しかし関節と甲殻の継ぎ目はこのサイズの生物にしては脆弱。勝てる相手だ。

 独特のリズムで鋏を鳴らす威嚇には構わず、振動ブレードを起動しつつ一斉に駆け出す。突進する俺たちを迎撃せんと大蟹は爪を振りかぶるが、狙撃がそれを弾き飛ばす。

「ぅりャあッ!」

 一の太刀を入れたのは新人のレアンドルだ。しかし、これは浅い。

「殻に当てるな!関節を狙うんだ!」

 猛攻。関節部に次々刀傷が刻まれ、反撃は的確に狙撃班が妨害する。
 戦闘開始から三分、右第四歩脚が斬り落とされ大きく体勢が崩れた。その隙に開いた右腕付根へ飛び、剣を振るう。さくりという感触とともに、丸太のような腕が脱落して轟音を立てた。

 大蟹は残った鋏を一層強く打ち鳴らし、口の周りに泡を溢れさせる。あれを使う気だな。
 着地後の俺を狙った強酸ジェットは、狙撃で体を揺らされたために紙一重逸れ、装甲服を僅かに焼くに留まる。
 それと同時に岩陰から影が飛び出す。二刀が閃き、残った爪もまた宙を舞った。

「ズビジェク、良くやった!」

 ギチギチと苦悶の声らしきものが上がる。両の鋏は喪われ、酸の再発射まではあと五秒ある。決め時だ。強く強く踏み込み、褌部の継ぎ目から脳天めがけ渾身の突きを見舞う。

 次の瞬間、大蟹の巨体は糸が切れたように崩折れた。

 ―――

「収穫はコンテナに収めたか?」「完了」「いつでも」

 今回の個体はやや小ぶりだったが、実入り自体は上々。作業を手早く済ますと、俺達は移送ポータルを起動し、光すら超える速さで跳んだ。


 ―――


「へい、カルキノスガニの握りお待ち!」

 今日も俺の職場、「天の川鮨・アルファケンタウリβ第一軌道エレベータステーション店」は様々な星の人々で大賑わいだ。

(つづく)

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