0G無頼剣 オリオン八州殺し旅
舷側物理ハッチが開放されると同時に、俺の目には満天の星空が広がる。
実際のところ、その正体は撃たれ赤熱した敵船の外殻と、敵斬り込み隊の噴射炎である。
「今日もうんと稼ぐとしようか」
愛刀、超振動RSS(ロケットアシストセイバー)〈カシキリ〉に語りかけ、俺は手近な光へ向け、足場を蹴って暗闇へ飛び込んだ。
地球圏標準時間で11秒きっかり、最初の一人とコンタクト。逆噴射で減速しつつ抜刀する。
細かな制動で常に正対を保つ癖。敵は恐らくステーション警備隊上がりか。正眼に構えた切っ先はブレることなく、練度の高さが伺えた。
仕掛けたのは敵方。澱みない、滑らかな面打ち。
素人め。
前方へ急加速、打ち込みを逸しつつ体当たり。そのまま押し込み、首筋へ刃をあてがい引く。触れば斬れ、踏み込みは5Gを超える。通常の理合は宇宙(ここ)では通用しない。
声のない絶叫とともに事切れた一人目を横に退かすと、次の相手が既に迫っている。
先手を取り、縦に打つ。ガード。反撃の胴薙ぎ。しかしそれは空を切る。反作用に逆らわず、打ち込んだ点を支点に身体を浮かせて躱したからだ。そのまま切っ先を向け、柄のロケットを点火。刹那、驚愕に見開かれた目の間へ刀身が突入する。二人。
素早くワイヤで回収し、助太刀に入ろうとした三人目へ向き直る。彼は狼狽し、通信を試みているようだった。
『『手練がいる!援ンッ』』
オープン通信が断末魔を拾う。今斬ったやつと、それから味方のだ。シグナルロスト位置を確認する。近い。離脱?遅い。
噴射光が輝く。赤備えの武者。咄嗟に刀を縦にし、受ける。コンパクトに袈裟斬りを繰り出す。防御。双方飛び退く。
しばしの、沈黙。
「「こいつか」」
バイザー越しに、俺達は同じ事を呟いた。
急加減速のタイミング、剣術としての体さばき。使い手だ。何よりもその構えは見まごうこともない0G天然理心流。奇しくも俺と同じ流派。
面白い。
俺もまた、剣を構え直す。
〈続く〉
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