あなた自身を一分間で表現してください
長い前置き
今ちょうど就活生なので、朝井リョウ原作の映画『何者』をアマプラで観た。この映画が公開されたのは2016年、もう5年前だ。当時六本木の森アーツセンターにマリー・アントワネット展を観に行ったとき近くの映画館前に『何者』のデカいポスターが大量に貼られていて、高校生だった私は就活絶対したくないよやだよ~~と怯えていた記憶がある。
当時は相当話題になったし、『何者』が就活のお話ってことはたぶん知ってる人が多いはず。私もそれは知っていて、だからこそ今まで観る気にならなかった。音に聞く就活とやらの恐ろしさを直視したくなくて……どうせ数年後に見ることになる、自分の進路に待ち受けている地獄をわざわ先回りして覗きたくないというか、見てしまったら将来に希望が抱けなくなるんじゃないかと思っていたので。
ではなぜ今になってようやく観ようという気になったのか。それは既に就活という荒波の中に放り込まれヒイヒイ言わされているからです!
目を逸らし続けていた就活も始まってしまったものはどうしようもないのです。こちらが避けていても就活の方から近づいてくるのです。就活中こそ地獄は現実だけで間に合ってるよ~となりそうなものが、今は不思議と観たい気持ちになれた。現実の地獄を忘れるためにはより強い地獄がフィクションとして必要なのかもしれませんね、知らんけど。
たぶん誰しも人生の中で「名前は知ってるし流行ってるのも知ってて、面白そうだとも思うんだけど摂取しないままズルズルと今まで来てしまったコンテンツ」ってあると思うのだが(私はそれを積みコンテンツと呼んでいる)、『何者』はまさにそれだった。でも結果的にこのタイミングで観るのが正しかったような気もしている。やっぱり就活の話が一番刺さるのは就活生だと思うし。就活したことない人も、もう就活が終わった人も勿論楽しめるだろうけど、あのヒリヒリした雰囲気はやっぱり自分も同じ状況にいる人特効なんじゃないだろうか。だってやっぱり人間は喉元過ぎれば熱さを忘れるので……
受験生の時の足元が見えなくなるような逃げ場のない不安を、きっと私はもう正確に思い出すことができない。どこにも受からなかったらどうしよう、大学に行けなかったらどうしよう、自分は一年後どうなっているんだろう?毎日毎日怖くて、不安で、その感情から逃れるためには机にかじりついて無心で問題集を捲るしかない。でも、大学生になってしまった私は、当時の私に月並みな言葉しかかけてあげられないと思う。「大丈夫、なんとかなるよ。みんな通ってきた道なんだから。」自分が一番言われたくなかった言葉。結局安全な場所にいる人が今まさに不安の只中にいる人のことを心から理解するなんてできないし、あらゆる慰めの言葉は無責任だ。世の中は生存バイアスだらけ。
本題
何を言っているのか分からなくなってきたのでそろそろ本題に入るが、結論から言うと映画『何者』はめちゃくちゃ面白かった。まずキャストが凄く豪華。メインキャストは佐藤健、菅田将暉、有村架純、岡田将生、二階堂ふみ、山田孝之の6人。5年前ということを加味してもすごいキャスティングだなと思う。個人的には菅田将暉の役がすごく好きでした。圧倒的に可愛い。この作品のメインヒロインは菅田将暉。直近で見た菅田将暉がクソチャラ関西弁ドーナツEPの売人(極悪)だったので今回の役が眩しすぎて危うく恋に落ちるところだった。二階堂ふみちゃんも演技が上手で流石~となった。
この映画ではTwitterが物語のキーアイテムになっていて、登場人物のほとんどがTwitterユーザーだ。かなりの頻度で「そういえばTwitterで見たんだけどさ」と会話が切り出される。これ、リアルですね……ツイ廃なのでちょっと耳に痛い話とかヒヤッとするシーンが多くてザワザワした。あと山田孝之(理系の院生)の「俺はTwitterとかやってないから分からないけどさ」という台詞があり、反射的にええ!?理系の院生でTwitterやってない人っているんですか!?!?と思ったけど冷静に考えてみたら普通に沢山いるだろう。そもそも私には理系院生の知り合いがいない。自分の周りがツイ廃だらけなので人類が全員Twitterユーザーだと思っている節があり、気を付けようと思った。ちなみに佐藤健演じる主人公はツイ廃。
作品冒頭ではスーツ姿の大量の就活生と面接室が映され、面接官が「え~貴方自身を一分間で表現してください。どんな方法でも構いません」と言うシーンで物語が始まる。
既に最悪だ。面接でそんなこと言われたら何を喋れば……いや、何をすればいいんだろうかと考え始め憂鬱になってくる。だがこんなのはまだまだ序の口だ。これからめくるめく最悪オブ最悪のオンパレードが貴様を待ってゐる!
会社勤めを馬鹿にする、就職しない友人を見下す、友人の内定を素直に喜べない、こうして書いてしまうとありふれているんだけど、明確な言葉ではなく声や表情、言い回しなどに滲み出ているのがすごい。俳優て……すごいですね。何よりあのお互い探り合いながらマウント取り合うみたいな雰囲気、受験期あれがものすごく苦手だったので嫌すぎて泣きそうになった。嫌ですよねえあの感じ……教えてもいない人が自分の志望校知ってた時の感情を久しぶりに思い出してしまった。
物語の主軸である主人公の無意味に肥大化した自意識とプライドが現実と折り合わない居心地の悪さ、ものすごく既視感があった。その声は、我が友、李徴子ではないか?『何者』は現代版日本版山月記とも言えるかもしれない。李徴は若くして科挙に合格しているので就活戦争には勝っているが、すぐ辞めてその後困窮してるので長い目で見れば就活に失敗した人と言えるでしょう。私も人生詰んだら虎になろうかな、兎年だけど。たぶん山月記を読んで苦しくなったり、人間失格を読んで自分のことだと思うタイプの人にはグサグサ刺さるお話だと思う。私がそうなので。
そうそう、本筋から逸れるがこれだけ言わせて欲しい。佐藤健と菅田将暉、同居してるんですよ……。冒頭、佐藤健の帰宅シーンがあり生活感に溢れたアパートの室内が映し出される。「ただいま~」と誰かに声をかける佐藤健。実家住みなのかな~と思っていたらなんと風呂上がりで半裸の菅田将暉が部屋の奥から出てくるではないですか。思わず一時停止しておいおいそういう大事なことは先に言ってくださいよ!と叫んでしまった。今見たらちゃんとあらすじに書いてあったけど。あと菅田将暉がたまにものすごく甘えた感じの声を出すのでその度に謎の怒りが湧いてきて大変だった。何が「拓人(佐藤健)はいいの」だ。明らかに語尾に♡が付いていたじゃないか。ふざけやがって……!!(翻訳:超かわいい)あと佐藤健がずっとフレッドペリーの服着てるのも“分かる”という感じがして良かった。
ダラダラと書いてしまったけれどネタバレなしの感想はとりあえずこんな感じ。この映画、誰もが何回かはうわー!と叫びだしたくなるシーンがあるんじゃないかと思う。そのくらいリアルで、心を抉られる。特に根暗のツイ廃は重症を負う可能性があるので要注意です。それでも客観的に他人の就活の様子が見られるのはわりと役に立つかもしれないし、単純に物語として面白い。就活中の人はせっかくなら今見てみると良いんじゃないでしょうか。俺も早く内定ほし~~!!
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