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想像してみませんか? 『ほんのちょっと当事者』 #284

思えばあれから一年経ったことになります。

明け方に激烈な腹痛で目が覚め、病院へ。検査の結果、平成最後の日に手術を受けたのでした。たまたま自宅で痛みが起き、たまたますぐに病院に行くことができ、本当なら7月まで待たなければいけないスケジュールだったのにたまたま手術室に空きが出た。

「運がよかったですね」

医師にも看護師さんにも何度も言われました。もしいまだったら……と思うと恐ろしくなります。お世話になった方には感謝しかないし、いまどんな現場を過ごしておられるのだろうと思うと胸が痛くなります。

この入院で、やっといてよかったなーと思ったのは生命保険にいろいろ特約を付けていたことでした。入院と手術の給付を受けることができたのです。

マンガの『MASTERキートン』で生命保険とは「定められた期間までに、人が死ぬかどうかを賭けること」と説明されます。わたしの友人は40歳を過ぎてから加入したため、保険料が高かったとか、ちょうど保険が切れたところで入院したといった話もよく聞きます。そう考えると。

わたしは生命保険の「賭け」に勝った方なのかもしれません。

一年前の入院は人生で2度目のもので、20代の時には半年ほど入院して、結構な額の給付金を受け取ることができました。ほとんど親に渡したのですが、あれがあってよかったといまでも思います。

生命保険や入院のように、当事者になってみないと分からないことはいっぱい。首までドップリ当事者になる前に、ちょっとだけその世界を想像することができれば。

フリーライターの青山ゆみこさんの著書『ほんのちょっと当事者』は、そんな「困りごとを自分のこととして考えてみましょ」という本です。

自己破産や性暴力、親の介護といった社会問題から、おねしょの悩みまで、体験談としてのエッセイと、困った時の相談先が掲載されています。

わたしの両親は共に70代後半。病気をしながらも商売をして、マスクを手作りして送ってくれるほどには元気です。親の介護はいつかはわたしも迎えることになるのだろうな……と思いつつ、何も準備していないことを思わされました。

著者の青山さんは、きっと、とても面倒見のいい人なんだろうなと読んでいて感じました。性被害のことなど、語りたくないこともあったと思いますが、その時感じたことが冷静な言葉で綴られています。

読んでいて気がつきました。わたしはとても「運のいい」人ではあるのですが、なぜか「罵倒されやすい」タイプでもあるようです。

先週、新人研修の場で、なんと新人から一方的に罵倒されました。

職場でのパワハラや面罵も経験もあり。あるメディアに書いたコラムを巡っても、人前で罵倒されたことがあります。後で彼はこう言っていました。

「やさしいから怒らないと思ってた」

怒らないことと、罵倒することの間には、13階段くらいの距離があるようにわたしは思うのですが、そう考えない人もいるのですね。

困りごとは、当事者や周りを困惑させもするが、不思議と姿を変えて、困りごとなだけでなくなることもある。

いま抱えている困りごとは、自分ひとりのことではないかもしれません。また、周囲の人の中にこんな困りごとを抱えている人がいるかもしれない。首までドップリ当事者になる前に。自分の言動で人を傷つけてしまう前に。

ほんのちょっと、想像してみませんか?

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