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生と死の象徴が示す世界のリアル 『火の鳥』 #399

永遠の時を生きる伝説上の鳥「フェニックス」は、古代エジプト神話に登場する鳥ベンヌが原型だといわれています。

20代の友人に「フェニックスって知ってる?」と聞いてみると、「ハリー・ポッター!」という返事が返ってきました。わたしのイメージでは手塚治虫なんですけどね。ああ、時代かな。

古代エジプトの人々は、ベンヌのことを「不死の鳥」と考えていました。毎晩神殿の炎に飛び込み、翌朝また生まれるのだと信じていたのです。太陽神ラーを崇拝する人々にとって、太陽の象徴でもあったのですね。

手塚治虫にとって『火の鳥』は、ライフワークでもあったそうです。マンガ家となった初期の頃から晩年まで手がけた漫画でした。

文庫本だと、
「黎明編」
「未来編」
「ヤマト・異形編」
「鳳凰編」
「復活・羽衣編」
「望郷編」
「乱世編」
「宇宙・生命編」
「太陽編」
「ギリシャ・ローマ編」
と続き、自分が死ぬ瞬間に「現代編」として1コマ程度描くつもりだったとのこと。この願いは叶わなかったため、「未完の作品」とされています。

この漫画の連載自体が「不死鳥」のようなもので、最初に連載された雑誌『漫画少年』の会社が倒産。引っ越しては廃刊、引っ越しては廃刊を繰り返した話は有名ですよね。

血を飲めば、永遠の命を得られるという「火の鳥」。その神秘の力を巡って、各編の主人公たちが運命を変えていく。それぞれの物語は独立しているので、各巻単体でも読めます。

特に好きなのが、宇宙船を舞台に、人の罪深さを描いた「宇宙・生命編」と、ふたりの仏師による東大寺の鬼瓦制作をとおして、愛と信頼の力を描く「鳳凰編」でした。

「鳳凰編」の舞台は奈良時代です。強盗だった我王と、仏師の茜丸は、挫折と苦難の日々の中で輪廻転生と因果応報を知ります。鬼瓦コンペとして因縁の対決を迎えることになるのですが。

大仏建立という一大イベントのために、飢えに苦しむ民衆が置き去りにされている現状に疑問を感じる者がいれば、コンペに勝って栄華を誇ることを目指す者もいる。

延期されたとはいえ、オリンピックを開催する気満々だった面々を思い出しちゃうんですよね……。

「火の鳥」は、見とれてしまうくらい美しい姿をしていますが、寿命が尽きそうになると自ら火に飛び込んで身体を焼き尽くしてしまいます。灰から生まれた雛は、みすぼらしくてグロテスクなもの。そのどちらも「火の鳥」です。

生と死。諸刃の剣。ヤヌスの鏡。清と濁。

考えてみると、相反するものが背中合わせになった姿は「人間」そのものなのかもしれない。

今日は8月15日。「戦没者を追悼し平和を祈念する日」です。祈りの週末は、あまりにも壮大で、あまりにも本質的なストーリーにひたりたい。

静かに、静かに。



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