思い出したくもない体験集 『死ぬかと思った』 #209
死ぬかと思った……ほどの経験はありますか?
わたしはあります。
交通事故で文字通り、九死に一生を得たこともありますが、恥ずかしさで死にたくなったこともあります。
そんな「死ぬかと思った」経験を集めているのが、「Webやぎの目」の人気コーナー「死ぬかと思った」です。著者の林雄司さんは「デイリーポータルZ」の編集長でもあります。
深夜ラジオのひとり語りを聞いているような、ゆる~っとした空間。「死ぬかと思った」コーナーのエピソードのベストセレクションも書籍化されています。
花粉症エピソードや子どもの悪ふざけが過ぎちゃったというものから、父親にナタを振り回される、自転車のブレーキが壊れて坂道を疾走といった、マジでヤバいものまで、「死ぬかと思った」体験がいっぱい。
こういう本を読むと、「平凡」という人生はないんだなーと感じてしまいます。
「人生の主役は自分である」
なんて、金八先生が言いそうなセリフですが、みんなそれぞれに大変な思いをして生きている。いまの自分のつらさなんて、なんてことないようにも思えてきます。時間が経てば笑い話にできるのかもしれないから。
せっかくなので、わたしの「死ぬかと思った」エピソードを。
20代の頃、頼まれてお見合いに行ったことがあります。勤め先の会社に来ている取引先の方から
「うちの息子に会ってほしい! 一回でいいから!!」
と言われて、断り切れなかったんです。
ホテルのラウンジで待ち合わせ、お茶を飲みながら少しおしゃべり。映画かお芝居でも観ましょうか、と立ち上がったはずが、なぜか東京ドームで野球観戦となりました。
バックネット裏というんでしょうか。バッターボックスの斜め後ろくらいの席に座り、紙コップに入ったビールを飲みながら、けっこうくつろいでいました。とりあえず試合を見ていれば話もしなくてすみますしね。
バッターボックスに選手が入る。ピッチャーが構える。投げる。打った! そのボールが……!
一直線に、わたしに向かって飛んできた!!!!!
慌てて通路にしゃがみこんだわたしのお尻に激痛が走りました。
大ヒット!!!!!
イリノイ大のアラン・ネーサン名誉教授によると、大リーガーがバットの芯で捉えた打球の速度を求める公式は
(球速×0.2)+(スイング速度×1.2)
で求められるそう。日本の野球選手の平均スイング速度は130キロだそうなので、ピッチャーが150キロのボールを投げていたとすると、打球速度は(150×0.2)+(130×1.2)=186キロです。
痛いっよぉぉぉぉ~~!!!
「ファウルボールにはご注意ください~」
なんてアナウンスが流れる中、周囲の人に助け起こされ、恥ずかしくてうつむいていた顔を上げると、お見合い相手は爆笑していました。
(コイツ、ちょっと許せん)
そう思いつつ、席に座ると、彼は言いました。
「お尻はね。いっぱい肉がついてるから大丈夫だよ」
いちおう、この人はお医者さんです。でも、最初に言うのがそれ!?
(コイツ、マジ許せん)
その場ですぐに帰ってもよかったのですが、どうせもうちょっとで試合が終わるしと思ってガマン。その後、超お高いステーキをおごってもらうことにしました。でも、超お尻が痛くて肉なんて食えない!
家まで送ってもらい、名刺と携帯の番号を教えてもらいましたが、家に帰って即ポイ!
翌日、お母さんから連絡がありましたが、無視!
お尻ですか? きれいなまん丸の青あざができました。
……死ぬかと思った。
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