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“自分を知る旅”の雑学 『MASTERキートン』 #282

子どもの頃、親戚の集まりで大人たちが言うアレが嫌いでした。お酒の匂い、タバコの煙、母たちが台所で働く水音、からかい半分の笑い声と共に思い出します。

「お前は橋の下で拾ってきたんやで。ビービー泣いてて、おじいちゃんがかわいそうやなー言うて抱っこしたんや」

ホントに小さい頃は、この言葉をわりと本気にして、やっぱりビービー泣いていました。幼稚園くらいになると、「やったー!」という気分に変化。「ここではないどこかへ」に憧れるようになりました。

成田美名子さんのマンガに夢中になったのも、常に登場人物が現在への居心地の悪さを感じていて、自分の居場所を探しているように感じたからです。「エイリアン」なんていう言葉が出るほど熱烈に、です。

一時期、「自分探し」という言葉は皮肉をこめて語られていましたが、結局、生きるって「自分を知る旅」ではないかと思うのです。

「ここではないどこかへ」。

浦沢直樹さんのマンガ『MASTERキートン』の主人公・平賀=キートン・太一もまた、自分の居場所を探している人物でした。

キートンは3つの顔を持っています。

1つ目は大学講師。専門は考古学です。
2つ目は保険調査員。カンタンにいうと探偵。
3つ目はイギリスの特殊空挺部隊SASの伝説的マスター。

オックスフォード大学在学中に学生結婚しますが、その後、離婚。その痛手から自分を鍛え直そうと軍隊に入って活躍するも除隊。考古学者として身を立てる夢はありつつ、現実は保険会社の下請け探偵です。つまり、何もかもうまくいってないんですよね。

とはいえ、オックスフォード大の知能×SAS曹長のサバイバルテクニックです。並みの人間には不可能なヤバい場面を、“その場にあるもの”で突破していく。これは自分への禁止ワードにしてるんですが、「すごい」のひと言です。

日本やイギリス、イラクやイタリア、中国、ルーマニアなど、世界中を回りながら請け負う仕事が描かれます。芸術、歴史、地域の食べ物、軍事、民族など、異色の探偵キートンが目にする世界の解説にサラリと触れることができます。

わたしは一年に一度はイギリスに行くのですが、このマンガで知った雑学はけっこう役に立ちました。置き引きには気をつけようとか、雨上がりのロンドンは日射しがきれいだとか。こちらはホテルから撮った写真です。

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日本でのらりくらりと暮らす動物学者の父、イギリスでやり手の経営者として生きている母、しっかり者の娘。かみ合っていないように見えて、しっかりとした絆が感じられるけれど、キートンは自分の居場所を探し続けます。

「ここではないどこかへ」から、「私はここにいます」へ。

別れた後も妻を想い続けるキートンの愛は成就するのか。一気読み必至のストーリーです。


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