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名前よりも、肩書きよりも、“人”をみつめて 『CIPHER』 #280

映画「エデンの東」をいまの視点で見ると、ジェームズ・ディーン演じるキャルは「中二病」ですよね。家族の秘密を知りたがり、親の愛を疑う。「クレクレ厨」とも言えるかもしれない。

かっこいいからなんでも許せるんですけど。

この「エデンの東」と、聖書の「カインとアベル」の物語をモチーフとしたマンガが成田美名子さんの『CIPHER』です。

主人公はサイファとシヴァという双子の兄弟です。彼らにはある秘密があって、ある日、それを同じ学校に通うアニスに知られてしまいます。秘密を暴露されないためにアニスと仲良くするうちに、本当に心許せる間柄となっていくのですが……というストーリー。

名前を見てお察しの通り、「サイファ」も「シヴァ」もインドの神様の名前です。彼らのおばあさんがインド人で、赤ちゃんの頃にモデルデビューした彼らに芸名として付けてくれたのです。

ふたりだけで、秘密を抱えて暮らしている彼らにとって、お互いだけが世界との接点。そんな共依存の関係が壊れた時、人はどうなってしまうのか?

「生きていれば、また会える」がテーマとなる物語なのですが、わたしがとても共感したところは「名前よりも、肩書きよりも、その“人”を愛したい」という点でした。

成田さんのマンガでは、よく「名前」が重要なモチーフとなっています。

『花よりも花の如く』では、主人公の憲人の幼なじみが出てきます。彼は在日韓国人で、昔は日本語読みで呼んでいた彼の名前の、「本名」を知った喜びが描かれています。

『花よりも花の如く』の前作である『NATURAL』には、友人アリーシャが、イギリスで自分の“日本名”を知って涙を流すシーンがあります。

「初めて大地に立った気がしたの。わたしがわたしになった気がしたの」

自分のアイデンティティを確認する重要なアイテムとして、「名前」が使われているんです。

『CIPHER』の姉妹編である『Alexandrite』の主人公・アレックスは、自分の女名前を受け入れることができません。幼い頃の心の傷もあって、コンプレックスが強いんです。そんな彼が自分という存在を受け入れる姿が感動的でした。

『CIPHER』の中で、ふたりの双子は、日常生活も芸名で呼ばれることが多い。ずっと演技しているような状態なんですよね。親しくなったアニスに本名を聞かれて、

「どっちの名前で呼びたい?」

と尋ねます。それは、

「どちらの名前で呼ばれたい?」

という問いでもあります。双子が対立して決裂。離ればなれになったことで、そばにいたアニスもアレックスも傷つきます。こころの痛みを乗り越えて、もう一度会えるとしたら。

「名前よりも、肩書きよりも、その“人”を愛したい」

普段、誰かの話を聞く時に、その人の「肩書き」で判断していないか。相手次第で対応を変えたりしていないか。誰かの秘密に気づいてもそっとしておくやさしさ。自分の「クレクレ」よりも相手の傷を思いやるこころ。その“人”自身を、自分の目で確かめようと考えるきっかけをくれたマンガでした。

映画「エデンの東」から多くのセリフが引用されているので、映画も合わせて観ると、より感動が深まると思います。80年代のポップミュージック好きな方にもおすすめ。


『CIPHER』の電子版の中で、Kindleには「愛蔵版」が入っています。

コミックシーモアにもあり。


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