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直訳できない言葉から見えるもの 『翻訳できない世界のことば』 #474

ロシア語通訳者で作家の米原万里さんは、人類最古の職業は「通訳業」ではないかと書いていました。神々と人間とのコミュニケーションを取り持つ巫女たちは、つまり神の言葉を「通訳」していたからです。

世界には6900ぐらいの言語があるといわれているそうです。

言語はその地域の気候や文化を土台にしているので、異なる言語へと1 to 1で置き換えられないものもでてきます。そんな「翻訳できない言葉」を集めた単語集が『翻訳できない世界のことば』です。

著者のエラ・フランシス・サンダースさんが、インターン時代に投稿したイラスト付きの記事が話題となり、書籍化されることになったそう。

日本語からは「ぼけっと」などが収録されています。

「木漏れ日」があふれる縁側で、「積ん読」したままの1冊を手に取り、「わびさび」の庭を眺めながら「ぼけーっと」する。

日本語で読むとなんてことない文章なのに、実は翻訳者泣かせな文章なんです。これらは直訳できない言葉の連なりだから。翻訳できない言葉から見えるのは、豊かな人の営みであり、感性です。

ちょっと話は変わりますが、関西人であるわたしは、「ほっこり」の使われ方に違和感を持つことがあります。あまりにも使われすぎだからかもしれないですね。けっこうな割合で、(その場面ではほっこりできない……)と感じることも。まぁ、それだけ時代が「ほっこり」を求めているんだなーと思うことにしていますが。

日本の中だけでも「標準化」できない言葉があるのに、異文化の言語を翻訳するのはどれだけ大変なことなのか。翻訳小説などで「訳注」をみると、そんなことを感じてしまいます。

おまけに日本語の場合、女言葉と男言葉がわりとハッキリしているため、どう訳すのかは悩ましい問題かもしれません。

韓国発のベストセラー小説を映画化した「82年生まれ、キム・ジヨン」もやはり、翻訳された字幕の女言葉が気になりました。「日本の伝統的な女言葉」は、いまや映画の中の外国人女性が守ってくれている、という笑えない話もあるそうです。

でも、「82年生まれ、キム・ジヨン」は、女性たちが押し込められてしまう見えない「ガラスのハコ」を可視化した映画です。はたして「翻訳できない女言葉」をあえて使う必要はあったのかな……と疑問に感じました。

街角のクリエイティブにコラムが掲載されているので、よかったらこちらも読んでいただけるとうれしいです!


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