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生きる力を養うシェルター 『エイリアン通り』 #281

「代表作」は、作者にとって誇りなのか、重荷なのか。どのくらい影響を与える言葉なのでしょう。

小説『告白』で第6回本屋大賞を受賞した湊かなえさんは、「まず、作家であり続ける。そして5年後に『告白』が代表作でないようにしたい」と語っていました。本屋さんで湊さんの新刊を見る度、この時の宣言を思い出して、自分との約束を守る強さに感じ入ってしまいます。

今週の「#1000日チャレンジ」は、成田美名子さんのマンガを紹介してきました。1977年にデビューし、初の長期連載作品『エイリアン通り』が大ヒット。映画をモチーフにしたり、趣味のバスケや能をマンガに反映したりと、少女マンガでありながら宗教的、哲学的なテーマを含む作品を生み出しています。

わたしが初めて出会った成田マンガも『エイリアン通り』でした。従姉の家に行った時、棚にあったのを手に取って、そのまま布団の中で泣きながら読んでいました。あれは小学生のころだったかな。

ロサンゼルスの豪邸に住む美少年・シャールの家には同居人がいっぱい。
・ジェル:ジャーナリスト志望のフランス人
・セレム:シャールの家庭教師のアラブ人
・バトラー:シャール家の執事でお目付役のイギリス人
・翼:ホームレスだったところを拾われた日本人

実はシャールはアラビアにある某国の政治家の息子。女優だった母と、有力部族のトップだった父は周囲の反対を押し切って結婚。アラビアで金髪碧眼に生まれついたシャールは、常に命の危険にさらされながら育ちました。

ロサンゼルスでのびのび~という場面もあれば、事件に巻き込まれてしまったり、金塊を探しに旅したり。1話読み切りで、各話に映画にちなんだタイトルが付いています。

成田さんの「代表作」といえばコレだと思いますが、この大ヒットが思わぬ展開を呼んだのだそう。

『エイリアン通り』の単行本を棺に入れて欲しいとの遺言を残して自殺したいじめの犠牲者がいたことを知り、どんなに辛い目にあっても生き続ければ、いつか報われる時が来るとのメッセージを込めた作品の執筆を決意したという。
(Wikipediaより)

作家にとって、どれほどのプレッシャーになったことだろうと思います。

『エイリアン通り』に続いて発表された『CIPHER』では、双子の兄弟の過酷な運命が描かれています。クスリ漬けの日々、大切な人の喪失。悲劇を味わったふたりは、再び生きる喜びを感じられるようになるのか。罪と赦しが問われます。

どちらも映画や80年代のポップス曲がたくさん用いられているので、一見、明るい青春物語ではあります。でも。

生きるとは。人とつながるとは。喜びとは。

といった、とても哲学的なテーマを扱っているんですよね。サイファとシヴァのふたりの悲劇。シャールの運命。その家庭教師だったセレムの意地。

どのマンガにも、人間らしい生き方を求める叫びを感じます。

特に『エイリアン通り』は、舞台はアメリカのロサンゼルスですが、シャール邸に住む人たちに「アメリカ人」はいません。多民族国家のはずのアメリカで異邦人=エイリアンである彼らは、それぞれに「困りごと」を抱えていて、シャール邸はシェルターの役割も担っているんです。

生きる力を養うためのシェルターです。

子どもの頃から何度も読み返して、そのたびにわたしも生きる力をもらっている気がします。

自由に外出できない毎日は、「人間らしい生き方」を問い直す機会なのだと思います。自分にとって必要なものを選別して断捨離するのもよし、働きやすい環境を見直すのもよし。

わたしは、もう一度、「自分にとって心地いい状態」を考えてみたいと思いました。


『エイリアン通り』のKindle版はこちらから。

コミックシーモアはこっち。


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