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ゾンビの光 ⑦

〈ちょっと書き加えました〉



当機はまもなく
着陸いたします。

なお、中には
離陸となる方

着陸 離陸
両方となる方が
いらっしゃいます。  

トラブルや危険ではございません。
どうぞ ご安心ください。


***************

結婚式で
スピーチをこなし

ゆっくりと
幽霊のような日々を送り

気がつけば
身辺整理をしていました。
意識や意志は
はっきりせず

現実的にやるべきことは
身辺整理にまつわること。
その他のことは
すべてぼやけて
何にもピントを合わせることが
できない。
身体に全然力が入らない。

動ける時は
何かに動かしてもらう。
その何かが促すことは
身辺整理にまつわることだけでした。

大切な友達達とは
ほぼ連絡が取れなくなり
ひとりになっていました。

やり残していること
この身体があるうちに
やっておいた方がいいことを
考えました。

働かない頭を
なんとか叩き起こすようにして
この身体があるうちに
この自分と呼べるものでしか
出来ないことを。

そのことに必要な動き。
朦朧とした日々の中で
途切れ途切れに
それらを。

今にも千切れそうな糸に
思うように動かない指で
ビーズを
ひとつずつ通すように。

何度も取り落とし、見失い
また、一からビーズをつくる。
色、形、輝き、透明感
すべてが不完全で不恰好なビーズ。

糸は今にも千切れそうで
仮に完成しても
それが何になるのか
そもそも完成とは。

何ひとつ
たしかなものはない
それなのに
それ以外に
もう身体は全く動かない。

「二度と会えない」
そうでなければ
連絡することなど
ずっとなかったかも
しれない人。

身体が、この心が
無くなってしまったら
会えなくなり
会いたい気持ちも
きっと消えてしまう
わからなくなってしまう人。

ここにいるうちに
確認すべきもの
直接会ってしか
確認できないもの。
あるいは
直接会って
確認したいと思っていたもの。

最後の勇気を振り絞り
会ったことで
いくつかの
ビーズがなんとかできました。
その数さえも 曖昧で
手の中にビーズがあること
それくらいしかわからない。

「黄金の右手」
宇宙人(父親)の妹がそう呼んだ
到底それには及ばないが
それでも、だいたい何でも
こなして、生み出してくれたこの手。
宇宙人の娘の手。

何かを残さなければ。
朦朧とする頭で考え、必要な道具を揃えたり、作業したり。
「最後だ」と思うと、
やめるわけにはいきませんでした。
「最後だ」と思うと、
消耗も激しく、進みは
決して早いものではありませんでした。

また、なんとかビーズができた。 
そうやって、ただ
ビーズを作り続けました。

Zから預かっていたものは
すべて返却し
まつわるものも処分し
連絡先も削除しました。

麻薬は 効いていました。
思っていたより、
ずっと強い麻薬でした。






今は思うのです。

あれは ほんとうに
麻薬だったのか?

ゾンビになって
Zに再会し、親密度を増し
大切な友達を失った。

ゾンビは Zは
闇で悪なのか?

向かい合う自分とZ。
少し離れてその2人を眺めると
そのシルエットに
重なるように 大きな×印。

それが示すもの。
自分の頭頂部、頭の中でもいい。
それはそれは見事なお花畑かもしれない。
けれどもそれこそが私「個」を成り立たせている。存在の核。
しかし現実はどうか。
どこからどうみても
救いようもないゾンビ。
いつまで経っても、
着地も現実化も上手くできない
地球人になりきれず
不完全なまま。

Zはその個体から環境に至るまで
信じられないほどの
美しい花々で溢れさせている。
現実化の達人と言える。
中はどうであれ、
それこそが彼女を1番強く成り立たせている「核」だったかもしれない。

ズームしてみれば、
もちろん花々の中に
美しいと呼べないもの。
ゾンビの中に美しい部分は
あるでしょう。
自分に見えない、わからなかっただけで、当時のZの中に山ほど美しいものも。

それでも、グッと引いて見た
向かい合う二人は
とても対照的に見えます。

すべての出来事
自分にとっても、
彼女にとっても、
それは出会ったことが
関わった事自体が
よくなかった。
完全否定を意味する。
×印。

そうだろうか。
何かと何かを掛け合わせる
そんな印 ×印だったのだとしたら?

大切な友達を失ったのは
Zのせいなのか?
Zが居ても居なくても
その「核」であるはずの部分に
重大な欠陥があったのではないか。

Zによって刺激され、
そこは確かさを保てなくなった。
それは「核」に属することであり、
そこが崩れたことによって
存在そのものが
いとも簡単に成り立たなくなった。

さらに
「核」に関する重要な要素である
創造すること。
不完全な身体性の特徴に翻弄されがちな日常と、怠惰で傲慢な性質によって、「創造」から遠ざかり、継続がままならない。

「創造」しない「わたし」は、果たして「わたし」を保てるのか?
「あなたにとって創造とは、何かを生み出すとは何ですか?」
Zの存在無くして、自分は自分にこれを突きつけることができただろうか?

本気で
身辺整理をしようとしなければ
生まれなかったビーズ達は
生まれなくてもかまわなかったか?

この地球にいる
この肉体の
この手でビーズを生み出し
連ね、この目で眺める
それは経験不要だったことか?

Zのおかげで生まれた
Zのおかげで経験できたと
言えるのではないか?

Zとの時間のすべて。
彼女が見せてくれた
惜しみなく与えてくれた
気づかせてくれた
回収してくれた すべて。

すべては
当時の自分という個体にとって
その先を
この地球という場所で
肉体を持って生き続けるために
どうしても必要な
「最適な薬」だった
そう思うこともできる。

ありがとう!!
それ以外のものが
今は見当たりません。
そして
あれだけの時間とエネルギーを
注いでくれた
おそらくそこには
きっと計り知れない
悲しみがあったのではないか
あの時は何ひとつ
気がつかなかった。

傲慢と無知
ただただ
ごめんなさい
たくさん ほんとうに
ごめんなさいと思います。

闇の中にいた
ゾンビをZは救っただけだった。
そう思ったら
×印はクルクル回って
空高く消えていきましたよ。
なんだか すごくキレイに光って。

平沢進さんをよく聴いていた
ゾンビ時代。

ひとつの透明なカプセルに包まれた別の何か、世界みたいに感じます。

宇宙人とメールのやりとりが
始まって、Zにまつわる様々な出来事。

あの時でなければ
生まれることのなかったビーズ達。

そして、スープが
そこにはあります。

もうおそらく二度と
会わないけれど
Zの作る、スープは
ほんとうに、どこまでも
ただただやさしい味でした。

「世界一」
Zはこの言葉が好きだったけれど
「この世のものとは思えないほど」
わたしなら、そう言います。
それは、そうですね
あの時も、多分今も。



〈おわり〉


読んで下さった方
ありがとう!!

きっかけを下さった
相原あすかさん
松村潔先生
ありがとうございました。

何よりも
これを書くことで
わたしは救われたと思います。

早く
セミゾンビから脱皮するぞ!!


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