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ピザ屋に憑く霊は、幸せに転生する。

昔ピザ屋でバイトしてた頃、ひとつだけどうしても配達に行きたくないマンションがあった。
そのマンションの3階フロアのみ、なぜか空気が重く、時空が歪んでるような気がして、胸が苦しくなり、目眩がした。
休憩時間に何気なく店長にそんな話をしたら、
「ああ、あそこ? あそこ何年か前に虐待された子供が餓死したらしいで」
缶コーヒーを飲みながら、抑揚の無い口調で教えてくれた。

辛かったやろな。
しんどかったやろな。
怖かったやろな。
ずっと腹減ってたんやろな。

生きたかったやろな。

その子の「想い」が、そのマンションの3階フロアに強く強く残ってて、それが僕の「霊感」みたいなものと呼応したんだろう。

今日もそのマンションに配達だ。
不審者に見られないよう、ちっさいちっさい声で語りかけてみる。

おい。
腹減ってるやろ。
ピザ喰うか。
ピザなんか喰わせてもらったことないやろ?
うまいぞ、ピザ。
一緒にビールでも呑んだら最高やぞ。
当然ビールも知らんやろなぁ。
お前がいつから虐待されるようになったか知らんけど、美味しいもん食べさせてもろた思い出とか、あるか?
無いんやったら、さっさと成仏して生まれ変われ。
そんなクズ親じゃなくて、お前をしっかり愛してくれるお父さんお母さんのところに生まれ直せ。

輪廻転生ってわかるか?
死んでもまた生まれ変わるってことや。
今度生まれ変わったら、好きな人作って、一緒にたくさん美味しいもの喰え。
「幸せ」っていうのは、好きな人と美味しいもの喰うことを言うんやで。

現世で辛い思いした人は、来世で幸せになるはずや。
俺が決めた。
そうやないと割に合わんやん。

とりあえず、このピザ一切れ喰ったら、成仏しろ。
まー、喰えんやろうけど。
さっさと生まれ変わって、自分で喰いに来い!
おごったるから!
じゃあな!

店に帰ると、いつもは抑揚の無い店長が怒り狂っていた。
「ハシマこら! お前ピザ一切れ喰ったやろ! お客さん、めちゃめちゃ怒って電話して来たやないか!」
「えっ! 喰えたんや!」
ちょっと感動してたら、店長に思いっきり頭を張られた。

おいお前、ホンマに喰うなよ……。
バイト、クビになったやないか。
もうお前が生まれ変わってもおごらへんからな。
今度は愛のある家庭に生まれて、好きな人に巡り合ってうんと幸せになって、ほんでお前がおごりに来い。
来んかったら、俺が死んでから、幸せなお前のとこに化けて出るからな。

※ラストのみ、フィクションです。
断るまでも無いでしょうが。
「こうだったら良かったな」という、気持ちを込めたフィクションです。




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