見出し画像

同窓会と、初めてのラブレター

「休み時間にドッジボールもせんと、一人でノートに細かい迷路をず〜っと描いてた羽島くんが、こんなに逞しくなってるなんてね〜」

コロナ前に行われた小学校時代の同窓会で、隣りに座った女子がしみじみ語った。
もう自分自身忘れてしまっていたが、そう言えば僕は、休み時間に一人で延々細かい迷路を描いていた。
親に無理矢理やらされた野球が嫌で嫌で、すっかりスポーツ嫌いの暗い子供になってしまっていた。
小学生男子のモテの条件は、「足の速さ」一択だ。
スポーツ嫌いで体育嫌いで当然足も遅い僕は、恐らく一生女性とは縁の無いまま、ただひたすら迷路を描き続けるのだと思っていた。

「あと、キン肉マンもめっちゃ描いてたやんね!」
それはよく覚えてる。
キン肉マンの各超人の絵は大体ソラで描けたし、(小学生としては)クオリティも高かった。
よく同級生に頼まれて描いていたのだが、「これは商売になるのではないか」と思い、10円〜100円のギャラを貰って描くことにした。
1000円ぐらい貯まった時に、母親に自慢げに報告した。
僕は母親に褒められると思っていたのだが、なぜか思いっきりビンタをされた。
母親と一緒に一人一人の家を訪れ、親御さんに謝罪しつつお金を返した。

なんにせよ、絵の上手さでモテるには、少なくとも中学に上がるのを待たねばならない。
だが、いくらキン肉マンが上手くても、それでチヤホヤしてくれるのは同じようにモテなさそうな男子だけであり、迷路に至っては、そのモテなさそうな男子からの理解も得られないだろう。

中学の時に空手に出会えて良かったと、しみじみ思う。
あのまま大人になっていたら、いまだに童貞だったのではないかと、戦慄する。
事実、空手を始めたら足が速くなった。
とりあえず、幽霊サッカー部員だったのに、助っ人として陸上部の大会に出るぐらいには速くなった。
野球のトラウマから、「僕はスポーツが出来ない」と、自分で自分に「蓋」をしていた。
試しに「蓋」を外してみたら、思ってたより「スポーツが出来る」子供だった。

そして、空手を始めて足が速くなったら、ラブレターなども貰うようになった。
初めて貰ったラブレターは、差出人は不明だったのだが、アンケート形式だった。
・sheはいますか?
・どんな女の子がタイプですか?
・sheがいないなら、私と付き合ってもらえませんか?
「sheってなんのことや?」と思ったが、「彼女」という意味だと気付いた。うん。中学生女子っぽい。
生まれて初めてこんな物を貰った僕は、「これは絶対からかわれている……!!」と確信した。
「一生童貞を覚悟したこの俺が、モテたりするわけが無い……!!」という、揺るぎない自信があった。
「僕が愛しているのは、天龍の兄貴一択です! 押忍!!」

画像1

とだけ書いて、また僕の机の下に戻して、そのまま帰った。
翌朝、そのラブレターはもう無くなっていた。
差出人は誰だったんだろう。
悪いことしたな。

****

「あの頃の羽島くんはガリガリで私でも勝てそうやったのに、なにこの太い腕!!」
隣の女子が、僕の腕を触る。
僕も調子に乗って、力こぶを作ったり、大胸筋を動かしてみたりする。
事実、小学生の僕は、女子に腕相撲で負けたり、女子に泣かされたりしていた。

「羽島くん、ホンマに変わったね! なんかもう、東京オリンピックに出そうやもんね!笑」
「空道がオリンピック種目やったらええんやけどね笑」
いや、仮に空道がオリンピック種目だとしても、僕は日本代表に選ばれるような選手ではない。

「……ところで、羽島くん。私のこと覚えてるやんね?」
「まさかとは思うけど」というニュアンスで、その女子は笑いながら訪ねた。
……ついに、恐れていた質問が。
実は、僕はずーっと「この子、誰やったっけ?」と思いながら喋っていた。
「……ごめん。誰やったっけ……?」
それまでずっと上機嫌だった彼女の顔から、笑顔が消えた。
一瞬氷のような顔になったかと思ったが、徐々に顔色が紅潮して行き、
「私もあんたのことなんか、なんも覚えてへんわ!!」
と叫ぶと、チューハイを持って立ち上がり、別のテーブルに大股で歩いて行った。
会がお開きになるまで、もう彼女が僕と目を合わすことは無かった。

悪いことしたな。
結局あの子は誰だったんだろう。

まさか、あの、ラブレターを、くれた子じゃ、ないですよね?





この記事が参加している募集

オープン学級通信

僕が好きなことをできているのは、全て嫁のおかげです。いただいたサポートは、嫁のお菓子代に使わせていただきます。