その昔、何も気にせず握手ができる時代がありました。
まずはトップ写真を見て欲しい。
僕の車のコンソールだ。
左側にあるのはハンドグリップ。
握ったり開いたりして、握力を鍛えるためのものだ。
右側にあるのは、百均で買った木のお皿。
一体何に使うのか。
そんなもん、殴って拳を鍛えるに決まっている。
信号待ちのたびに、
①左手に持った木皿を右拳で殴る
②右手に持った木皿を左拳で殴る
③右手でハンドグリップ
④左手でハンドグリップ
⑤両前腕をマッサージ
一つ目の信号で①、二つ目の信号で②という具合に、この5種目を繰り返す。
僕には、一人で車を運転している時に大声で歌うクセがある。
従って、大声で歌いながら木皿を殴っている。
これはクセだから仕方がない。
なんか視線を感じてパッと横を向くと、横の車の運転手さんが同じタイミングで目をそらす。
奥さん子供も目をそらす。
前方不注意だ。
休日の公園に、嫁と散歩へ。
いい階段があったので、ワニ歩きをする。
↓これがワニ歩き。
肩甲骨と股関節の連動、柔軟性、筋力をつけるのに最適の運動であり、みなさんもやってみて欲しい。
階段の頂上にいたおばさんが、僕の接近に気付いて「ヒッ…‼︎」と言って跳びのかれた。
おばさんの怯えた目を思い出すとトラウマを抱えそうだったので、このワニ歩きのムービーをFacebookに上げてみた。
僕のFacebookを見るのは、僕のリアルの友達だ。
格闘技を嗜んでる人間が多い。
ワニ歩きなんか見慣れてるし、なんなら自身もよくやっているだろう。
「ワニ歩きぐらいで驚くなんて、変わったおばさんだね」
そう言われると思っていた。
アウトなんだそうだ。
〝ワニをしても一人〟
尊敬する尾崎放哉先生が降りて来られた。
放哉先生お久しぶりです。
小豆島の先生のお墓に最後に参ったのは、もう十年以上前ですね。
僕、結婚したんですよ。
今度嫁を連れて、久方ぶりに小豆島に参ります。
小豆島はいい所だ。
出来ることなら小豆島に住んで、僕も自由律俳句を詠みながら島の子供に武道を教えてのんびり暮らしたい。
仕事中にフォークリフトの爪で懸垂していたぐらいで怒られる職場は、もう嫌だ。
なんでこんなに変人扱いされながらも、車中や公園で鍛錬をするのか。
言わなくてもわかると思う。
今、道場が閉鎖しているからだ。
僕は中学3年の時に空手を始め、46歳の今までずっと格闘技を続けている。
今は空道という武道をやっており、試合に出て勝ったり負けたり、教える方もやらせて頂いている。
ちなみに、トップ選手ではない。
二流の凡百の選手だ。
トップ選手なら、こんな間違いはされないはずだ。
2回に1回は「羽鳥」と書かれている。
「はとり」ならまだしも、
はしま→はとり→はっとりと来て、
「おい、服部‼︎」
と呼ばれることもある。
もう「はしま」の面影ほとんど無い。
せめて「はとり」でお願いします。
空道という競技をわかりやすく説明すると、「面を被って道着を着た総合格闘技」。
もっとわかりやすく言うと、
「世界一面白い競技」です。
みんなやればいいのに。
空道のことも、また詳しく書きたいと思う。
寝技でも勝ちたいと思い、柔術も始めた。
こちらはまだ白帯。
昼間仕事して、夜は空道か柔術かウエイト、帰ってビール呑んで寝る。
一生続くと思ったこのルーティンが、あっさり壊れた。
道場は休業。
予定していた試合も、全て中止。
稽古を続けてることでなんとか保ってた見た目の若さだが、落ちるのはあっという間で。
5㎏太った。
腹が出て腹筋が無くなった。
口角が下がってきた。
猫背になってきた。
記憶が曖昧になってきた。
滑舌が悪くなってきた。
涙もろくなってきた。
右手に空き缶、左手にスマホを持ってて、スマホの方をゴミ箱に捨てた。
車のキーのボタンを押して、家の鍵を開けようとした。
卵かけご飯にソースをかけた。
急速に老化が進み出した。
車中や公園での気休めの鍛錬では、加速のついた老化を止めることは出来ない。
焦燥感を覚えながらも、業務スーパーへ。
業務スーパーオリジナルの食パンはおいしい。
スーパーで買い物をしていると、体格のいいおじさんが笑顔で走って来た。
有無を言わさず両手で握手された。
柔術の先輩だった。
「こんな時に握手なんて……‼︎」
と、眉をひそめる方もおられるだろう。
もちろん普段から無頓着で無神経で、うつすこともうつされることも気にしない人が気安く触って来たら、怒ると思う。
しかしこの人は医療従事者であり、道場が休業に入る前から、自主的に練習を自粛してた人だ。
普段も、感染しないようさせないよう、細心の注意を払っていると思う。
そんな人が立場も状況も忘れて、衝動的に握手をして来たんだ。
僕の方も立場も状況も忘れて、ただ嬉しくて手を握り返した。
ほんの1ヶ月かそこら会ってなかっただけなのに、はるか昔に共に汗を流した仲間に、何十年ぶりかに会ったような感じがした。
格闘技は、練習も試合も濃厚接触の極みだ。
一体いつになれば、以前のような形で練習や試合ができるようになるのか。
モジモジくんのような全身タイツを着て、マスクをして、医療用手袋をすれば、また格闘技ができるのではないか。
なかば本気でそう思っている。
人生の半分以上格闘技をやっているので、稽古に行く時もテンションが上がるでもなく下がるでもなく、ルーティンとして淡々とこなしていた。
ある日突然、当たり前のルーティンを禁止されたら。
今日から歯みがき禁止。
今日から入浴禁止。
今日からトイレ禁止。
無理だ。
思えば、濃厚接触に飢えていたんだと思う。
そこに来ての堅い握手で、僕の感情は大きく揺さぶられた。
このコロナ騒動が落ち着き、また何の気兼ねも無く濃厚接触ができるようになったら。
道場に着くなり、全員と握手。
もちろん両手。
スパー1ラウンド終わるごとにハグ。
なんなら泣きながら。
嫌われるな。
嫌われてもいいや。
また格闘技ができるなら。
僕が好きなことをできているのは、全て嫁のおかげです。いただいたサポートは、嫁のお菓子代に使わせていただきます。