ピーターラビットの出版120周年に、ベンジャミン・バニーと握手を

新訳の刊行を期に「ピーターラビット」シリーズを読み返す

2022年は、イギリスでピーター・ラビットの絵本が出版されてから120年目にあたる。
それを記念して日本でも「出版120周年 ピーターラビット展」が東京・大阪・静岡に巡回し(私は東京展に行きそびれ、遠征するか悩んでいる)、さらにシリーズ全23巻(童話21冊、詩集2冊)が川上未映子さんの新訳も早川書房より刊行予定だ。

だいぶ長いこと手に取ってもいなかったが、私もピーターとうさこちゃん(ミッフィーのこと。私の世代はそう呼んでいた)というウサギ界の2大スターのお世話になって大きくなったくちである。
久々に読んでみるかと本棚をひっくり返し、ついでに新訳版も手に入れて(2022年8月現在は5冊まで)読み比べていたのだが。
幼稚園(~小学校)時代には「ピーターの従兄弟」くらいにしか思っていなかったベンジャミンがなかなか良いキャラだということに気がついた。

ベンジャミン・バニーといえばピーターラビットの従兄弟で、シリーズのレギュラーと言っても良い。
茶色い上着を着て、サイズの大きい毛糸の帽子をかぶった姿が有名な彼だ。

このベンジャミンとピーターが、『ピーターラビットのおはなし』でピーターがなくした服を取り戻しにマグレガーさんの畑に侵入するのがシリーズの2作目にあたる『ベンジャミン・バニーのおはなし』で、帽子をかぶった姿はその中のほんの一場面に出てくるだけなのだが、やはりベンジャミンと言えば毛糸の帽子のイメージが強い。

ベンジャミン・バニーと私

マグレガーさんの留守にピーターを誘って畑に忍び込んだベンジャミン、服を傷めない侵入経路を教えたりして、最初のうちはなかなか頼れる兄貴分だ。
畑の案山子から取り上げた帽子を被ってみせるのもその時で、昨日こっぴどい目にあったばかりのピーターが怖がって帰りたがるのに対し、ちょっとイラっとするほど余裕を見せつけてくる。

ベンジャミンのこの余裕はどこから来るのか。当人(兎)によるとそれは「にちようびのごちそう用に、おとうさんと、いつもこの畑にレタスをとりにきてるからね」(川上訳)とのこと。

『ピーターラビットのおはなし』で初めて畑に行ったと思われるピーターより先輩だからこその余裕…と言いたいところだが、彼は普段安全に「ごちそう」を手に入れられるのはお父さんが気を配ってくれているおかげだと気づいていない。
だからピンチになるとどう対処したらいいのかわからず、ピーターと一緒にシクシク泣きだして、お父さんに救出されるまで何もできない、というわけ。
(涙は玉ねぎのせいだと本に書いてあるが、私は絶対にそれだけじゃないと思う)

周囲の大人から仕入れた付け焼刃的なあれこれを同輩に自慢たらたらで披露し、盛大にこけて叱られる…なんだか身に覚えがあるな、と感じたのは私だけじゃないと信じたい。
まさにこの本の愛読者だった頃…具体的なエピソードは省くが3つや4つはすぐに思いつくし、記憶にないところではもっとやらかしているはずだ。

小さい頃は彼らの冒険にハラハラしつつ「私ならこんな馬鹿なことはしない」と信じていたものだが、今の私ならベンジャミンと固い握手を交わせるだろう。

ベンジャミンはウサギなので、読者があまり成長しないうちにさっさと大人になって子どもが生まれたりしているのだが、大人になってから昔の自分を思い返して巣穴の壁に頭をぶつけたくなったりしてはいないだろうか。
他人事だと思っていた過去の謝罪もこめてお酒の一杯もごちそうして差し上げたい。

問題はウサギ用のアルコールなんてものがあるかという点だが、ウサギ用のたばこがある世界なので探せば何かしら見つかるだろう。

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