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上か下か問題 ― 古本棚ぼろぼろはかなり水際

上は絶対選べない

PASSAGE(正確には PASSAGE ALL REVIEWS)は、棚主が本棚のスペースを借りて商品を置くシステムだ。
月ごとの店賃(棚賃?)は場所によって変わり、来店したお客さんの目につきやすい中段の棚は当然お高め。逆に一番上や一番下はあまり人目につかないために比較的安価。

私が入居を決めた時、中段の一等地はほとんど埋まっていた。
オープンから数か月が過ぎていたのだから、空きがあったのがラッキーと言える。
…認めたくないが、コロナの影響もあったかもしれない。

選べるのは棚の一番上(1,2番地)か、一番下(13,14番地)。
わざわざしゃがみこまないと目につきにくい下段は不利かもしれない…と思わなくもなかったが、あんまり迷わずに下を選んだ。

何故なら初めてPASSAGEに足を踏み入れた時、上の棚で面陳されていた本を片手でとろうとして他の本をひっくり返しそうになったからである。
もう片方の手にはかばんを持っていたせいで身動きが取れず、スタッフの方には大変なご迷惑をおかけした。
危うく大惨事を引き起こしかけた現場は PASSAGE CLINIC(アナトール・フランス河岸3・4番地)、取ろうとした本は山極寿一『ゴリラからの警告―人間社会、ここがおかしい』(毎日新聞出版,2018)である。
割とギリギリの状態で助けに来てくれたスタッフの方に「この!ゴリラが!取りたいんです!!」と訴え、結局買ってしまったが後悔はしていない。
…その節は、本当に申し訳ありませんでした。

うっかり1番地などを選んだが最期、持ち込んだ本を本棚に収める作業が大変なことになるのは予想できたので(同じ事故を起こさない自信は欠片もない)13番地か14番地。
それではどこに入居するべきかとPASSAGEの空き状況を眺めていたところ「河岸」という文字が目に入った。

河岸の店に憧れて

PASSAGEの棚は「神田神保町書肆街」という唯一の例外を除けばほとんどすべてにパリの住所と連動した名前がついている。
「~通り」「~大通り」「~広場」「~遊歩道」…などなど。
その中に2つだけ「ヴォルテール河岸」「アナトール・フランス河岸」と、「河岸」のつく棚があった。
何やら河岸に仮設の店舗を並べた市場のようで、旅情をくすぐる響きである。
その一番下ということは水際の、水かさが増えたら足元がチャプチャプいいそうな…実際に書店を構えるなら遠慮したいが、妄想の中ではなかなか魅力的に思える立地だ。

しかも見取り図で確認したら、アナトール・フランス河岸のすぐ脇に棚の切れ目がある。
これは分かりやすくて良い。
知り合いに「古本屋さん始めたんだー」と話すとき「一番手前から数えて何番目の棚の…」というよりショートカットできそうだ。

そんなわけで棚の切れ目に隣接した「アナトール・フランス河岸14番地」を申し込んだところ、次の日には入居OKのお知らせが届き、古本棚ぼろぼろはスタートできることになった。
アナトール・フランス河岸14番地はPASSAGEの入り口から見て左手、一番奥にある大きいアーチのすぐ手前の一番下である。
この住所、自分ではなかなか良いと思っているのだが…どんなものだろうか。

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