微小重力下における結晶構造の研究

この記事はCanSatチームFUSiONのアドベントカレンダー2023,14日目(12月16日)の記事です。

はじめに

はじめまして!FUSiONで研修生として活動している高校3年のNM3です。今回は、高校で2ヶ月間程行った微小重力下における結晶構造の研究を紹介したいと思います。温かい目で見ていただけると幸いです!

微小重力環境で起きる不思議な現象

宇宙ステーションは軌道を回っているため、船内はつねに地上の100万分の1ほどの重力しかありません。そのため、材料合成の際には地上では起こり得ないような次のような現象が起きます。

(1)自重による変形がない。
(2)熱による対流がない。
(3)比重の異なる物質が分離しない。
(4)物質を空間に保持できる。

このような現象は、私たちが地上に生活している限りほとんど手に入れることができません。これらの特異な環境を利用できるならば、今まで手に入らなかった新しい材料が開発される可能性も考えられます。


宇宙環境を利用した材料生成への応用

【微小重力環境で起きる不思議な現象】で列挙した、宇宙ならではの環境を活かした結晶生成におけるメリットとして以下のことが考えられます。

(1)自重による変形がない
・微小重力環境においては物体の重さがほとんどないので、結晶が自分の重さでつぶされるようなことはありません。
⇒綺麗な結晶ができる

・重力が働かないので、外から全方向に一定の力が加わることになります。
⇒例えばイオン結晶であればクーロン力の影響のみを受けて結晶が形成されるため、重力環境下よりも綺麗な結晶構造をとれる

(2)熱による対流がない
⇒結晶が作られる際の乱れが限りなく少なくできる
⇒分子同士の衝突が減り表面が荒れない

(3)比重の異なる物質が分離しない
気体と固体のように比重の異なる物質を均一に混合することができます。例えば、水と油は非常に混ざりにくく、地上でドレッシングのような水と油が混ざったものを振って混ぜても、水と油はすぐに分離してしまいますが、宇宙ではまったく分離せず、ずっと混ざりあったままの状態になります。

(4)物質を空間に保持できる。
物質を宙に浮かせた状態で、つまり容器に触れることなく製造できます。
⇒無容器無接触で物質を加熱、溶融、凝固、反応させることが可能
⇒不純物が混入する可能性を大きく減らすことができる

以上のことから、宇宙では高精度な材料が生成できるのではないかと考えました。


耐久実験による宇宙で起きうる現象の可視化

耐久実験により、対流の影響により分子がどのような振る舞いをするかを実践的に確かめました。実験結果として重力の影響を受けた時に、分子が回転する、結合部分が力を受け変形する、という2つの現象が起きうることがわかりました。

この結果から、化学結合を補強することで、重力の影響を軽減し、地上でも美しい結晶構造を形成できるのではないかと考えました。これらを考えるにあたって東京大学物性研究所の眞弓皓一准教授、東京大学大学院新領域創成科学研究科の伊藤耕三教授らが開発した、引っ張ると頑丈になる自己補強ゲルに着目しました。


化学結合の強化

重力圏においても、高精度な結晶構造を模擬し、無重力環境下での物質の振る舞いについてあらかじめ様々な研究を進めておくことができれば、宇宙中心の世界が来た時に、「重力」というこれまで無視されることが多かった力がもたらす様々な問題が発生しても柔軟に対処できると推測しました。

自己補強ゲルは、伸長すると内部の高分子鎖が伸び切って、互いに寄り集まることで結晶化し、それによって材料の力学強度が向上するが、取り除くと、一度形成された高分子鎖の結晶は消え、元の状態に戻る、というものです。(詳しくはこちらをご覧ください)

今回は、自己補強ゲルのような、伸長に強い機構ではなく、重力という上から下への圧縮に耐えられるように化学結合部分を補強したいので、上図のような機構を考えました。
一瞬縮むことを許して、絡まりを形成させます。(この際できる絡まりは、自己補強ゲルでいう伸長誘起結晶にあたります)この塊が結晶中のあらゆるところに形成されることで、耐久力が生まれ、圧縮に耐えられるのではないかと考えました。
さらにひと手間加え、反発力もつけることができれば、重力の影響がない状態を模擬できると考えました。

原子の構造から考えるとこの機構を実現することは極めて難しいのですが、超弦理論が明らかになれば不可能ではないかもしれないです!(すごく無理矢理です…笑)

他にも、化学結合部分にストローのようなものをかぶせる、原子にフィットするような形状のものを原子間にはめ込む、といった補強方法を考えましたが、これらの補強方法よりも現実的だと判断したため、以上の方法を提案します。



まとめ

研究の動機は、将来、宇宙中心の世界が訪れた時に必要とされる研究であるという確信から生まれた。現在の研究では一般的に重力を無視しているが、重力を考慮することで新たな発見が得られる可能性がありますし、重力の影響を無視してきたことが将来宇宙中心の世界で問題を引き起こす可能性もあり、それに対処するための準備として必要な研究だと思いました。

私は今後、惑星探査車の開発に携わりたいと思っているので、物性の研究はできないかと思いますが、このような微小重力環境での研究が進み、様々な研究成果が挙げられるのを楽しみにしたいです!


最後に

FUSiONでは研修として、テラメカニクスという、地面とタイヤの相互関係に焦点を当てた研究を行っています。FUSiONのメンバーの方々の暖かいサポートにより、1人でやるには難しい、やりたいと思った研究を自由に出来る環境が提供されています。

研究の他にも、メンバー同士が共通の目標に向かって意見交換や議論を行う姿を見て、多くのことを学んでいます。専門知識が全くない私にとって難しく感じる部分も多々ありますが、それ以上に得られるものがあります。FUSiONに興味を持った方は、是非詳細を調べてみてください!

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