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本でたどる家庭科の進化:激変する時代に合わせた自分らしいライフスタイル作りを考えよう

1 はじめに

「これ、本当に家庭科?」在職中、生徒達からこんな声を聞くたびにやれやれと思ったものでした。

家庭科という教科は「お料理と裁縫」「良妻賢母の育成」そんなイメージがつきまとうようで、中高生の中にも女子のための生活技術や知識を身に付ける科目というイメージを持つ生徒達がいたからです。

家庭科は男女共修になってから扱う内容を大きく変え、今では共修以前とはかなり変化しています。それなのに大部分の人のイメージは変わらないまま。それをとてももったいないと感じて来ました。

なぜなら大人にとっても家庭科で扱う最新の暮らしの知識や技術は人生をより豊かに自分らしく進化させていくために使える内容だからです。

そこで在職中に家庭科の仕事で使っていた本を使い家庭科の推移を「進化思考」で分析し〈家庭科の進化〉としてまとめてみる事にしました。

進化思考」の本については下記をご覧ください。

また今回使う「進化思考」でいう変異ついては下記の図をご覧下さい。

「進化思考」より抜粋

この家庭科の進化のまとめは個人の見解をまとめたものですが、家庭科が時代とともにどんな変化を遂げ進化して来たのか、少しでもご理解いただければ幸いです。

そして、その内容をご自身の時代に合わせたライフスタイルつくりに役立てていただければうれしく思います。

ちなみに私の家庭科教師としての簡単な履歴は次の通りです。

  1. 普通高校にて非常勤講師2年

  2. 県立産業高校農業科にて家庭科教諭2年
    (主人の海外駐在に伴い退職)

  3. 県立通信制高校にて非常勤講師8年

  4. 私立灘中学高校にて非常勤講師14年

  5. (灘と並行し神戸女学院中等部高等部など関西私立中高一貫校数校にて非常勤講師)

2 女子だけの家庭科の時代

大学を卒業後初めて家庭科を担当したのは大阪の府立高校でした。その後兵庫に場所を移し、翌年は帰国子女や海外からの短期留学生を含めたクラスも普通科とともに担当しました。

その翌年、採用試験に合格し教諭として初任で勤めた産業高校の農業科では1クラス10人前後の女子だけのクラスを受け持ちました。分校でしたが家庭科教諭は2人いて家政科の授業の半分、かなりの時間数を担当していました。内訳は家庭一般と言われた必修科目や保育、食物、総合実習といった専門科目などです。

この4年間の家庭科は女子だけの担当。

当時使っていた本は阪神大震災で住んでいたマンションが全壊し手元にないので本でたどる事が出来ないのが残念です。

この頃の家庭科は男子がいなかったので、いい意味でのんびりして平和。でも女子特有の人間関係が実習などに持ち込まれ苦労した時代でした。

では、この家庭科が「どう進化を遂げていくのでしょうか?」

3 男女共修の開始

被服実習のために購入した本

【融合】男子も女子も共にまなぶ家庭科。
これぞ進化思考の変異でいう融合です。
「家庭科の実習を男子も一緒に受ける」というのが想像出来ずメンズ服の作り方や洋裁の基礎を図解した本を買って、どう男性に被服の指導をするか頭を悩ませたものでした。

保育分野に力を入れていた時買った本

【増殖】通信制高校での生徒達の年齢幅の大幅な広がり

通信制高校ではいろいろな年齢の方が家庭科を受講されます。上は70代の方もいらしたかと思います。この頃、思い悩んだのは保育領域。それまで現役の普通科の高校生には避妊を含め家族計画、乳幼児の世話、子どもの発達など、これから親となる子達を対象に指導をしていたからです。

通信制高校はすでに子育てを終えている方、独身で子育てとは無縁な生活している方もいて、スクーリングと呼ばれる授業でどんな話題を提供するか迷ったものでした。

当時は自身の子育ての時期とも重なり、自分の子育てにも使える保育関連の本をたくさん読み、どの年代でも興味を持てるような話題を探し試行錯誤の日々を過ごしました。

4 時代に沿った家庭科の進化

女子校で指導した編み物

【欠失】男女共修でなくなった良妻賢母教育

女子だけの家庭科だった頃はスカートなどを被服実習に取り入れていたけど、そんな難しい服を作らせる被服実習や編み物などは家庭基礎等の必修科目では扱わなくなっていきました。

退職する前10年位は「刺し子のランチマット」「バッグ」「刺繍入りティーマット」など被服実習では小物雑貨を作らせることが多かった事を思い出します。

裁縫は生徒達から不人気でモチベーション維持が大変でした。

手芸関連の本

【移転】技術指導からオリジナルのデザイン表現へ取り入れる目的が移ってしまった刺繍。

刺しゅうについては女子だけ家庭科の時はテクニックとして基礎的なモチーフから難易度が高いものまで選択科目で入れていましたが、男女共修になってからは小物への自分らしい表現として刺しゅうをさせていました。

針と糸、布地と手順書がセットになったキットを活用し、生徒達には好きなデザインの生地を選ばせ、同じ形のモノを作らせていたので刺しゅうやワッペン、ポケットつけなどのオプションで加点し評価にする事が多かったのです。

刺繍はその目的が完全にオリジナリティを出す手段に移転していました。

様々な実験に関する本
衣生活分野での科学的な内容例

【分離】家庭科から離れていった科学的アプローチ

本来の家庭科は出来るだけ実習や実験を取り入れ生徒達が5感をフルに使い体験を通して学ぶ時間でした。しかし家庭科の時間数が減らされ、必修科目の家庭基礎を週2時間で扱うようになると時間割の中で1時間ずつバラバラに組み込まれ実習や実験に時間を割く事が出来なくなってしまいました。

そのため私が受け持った家庭科では実験や簡単な調理技術は動画などを用いる事になり、特に食品や被服素材を用いた科学的視点を取り入れた実験は完全に家庭科から切り離してしまうようになりました。(これはもっとちがうやり方があったかもしれず今となっては後悔しています。)

5 ライフスタイルつくりと家庭科

パーソナルファイナンス関連の本


思考法関連の本

【変量】私学に移ってから家庭科で扱う量を圧倒的に増やしたのがお金の話と思考法の内容。

灘高に勤め始めてから意識したのは社会に出た時に少しでも生徒達の役に立つ事を授業に取り入れる事でした。お金については基礎的な事から資産運用まで知っておくに越したことはありません。

自分にもファイナンスの知識がなければとファイナンシャルプランナーの資格を取り、有資格者向けの講座から最新のお金についての話をしたりビジネス的な発想が育てばと思考法を紹介したりしていました。

だたお金の事は生き方・ライフプランにつながり「金儲けが出来ればいい」「お金さえあれば幸せな人生が過ごせる」とは限りません。
そのバランスのいい考え方や多様な価値観をどう伝えていくか、時代の流れに合わせながら授業で扱う内容を変えていった事を覚えています。(生徒がどれくらい聞いてくれていたかは別としてです。)

7つの習慣関連の本

【交換】本来家庭科でやるべき内容を入れ替え(一時期)力を入れていたのが時間管理。

特定の学校ではなくどの学校でも高校生の生活リズムが乱れ「朝方寝て授業中はいつも眠そうにしていて、放課後になると何となく元気になる」様子を見て何か家庭科で出来ないかと取り組んだ内容が生活時間の自己管理の授業でした。

不十分な睡眠や時間管理のまずさは食生活に影響し体調不良につながるし、イライラや無気力など学校生活や人間関係にも影響します。そう思い他の内容を削って取り入れたのがタイムマネージメントについてのワークや講義でした。書ける範囲で1週間の生活時間を書き出し、見直し、改善点を考えるなどのワークを取り入れていましたが授業でいくらいろいろ言っても、結局自制心なければ何も変わらないと気づき、数年間の取り組みだけでやめてしまいました。

【擬態】模擬賃貸契約みたいな住居の授業。

悩みに悩んだ住居関連の本

住生活分野はどこの学校でも難しい領域でした。高校生にとって進学や就職で実家を離れる場合、すぐに直面するのが自分で住む部屋選びです。
なので実用的な知識を身に付けてもらうためにワーク中心で不動産屋とそれなりに対応が出来るように動画を視聴させ、賃貸契約の様子を知る所から始め、自分自身で住宅広告などを利用して部屋を選ぶワークを取り入れていました。

ただ私自身がしたかった住居関連の授業は、もっと家族と住まいの関係や住まいから派生するストーリーなど画像の本に書いてあるような内容で思い返すと葛藤が大きい分野でした。

家族分野、高齢者分野、共生関連

〈変異〉時代の流れで大きく変わった内容

家庭科に高齢者分野が入ると初めて聞いた時「これは困った」と思った事を覚えています。それまで高齢者と接した経験がなく介護の体験も全くないのに指導なんて出来ないと思ったから。
駆け込みで知人にお願いしてデイケア施設にボランティアで通わせてもらったけど、介護や高齢者の分野は扱いが難しかったのが事実です。

女子校は疑似高齢者体験グッズなども完備していて体験の時間をしっかりとれたけど、他は座学中心で「絵にかいた餅」状態。灘での最後の数年は父の入院や死別である程度の体験を授業で伝える事は出来たけど今でも何が正解かは分かりません。

ただ、どの学校でもプリント提出からヤングケアラーは一定数いて、それぞれ外には出せない悩みや苦しみを抱えている事を知り何も出来ない自分がとても情けなった事を思い出します。

また家庭経営、家族関係の分野も激変した領域の一つです。家族の定義、教家族に関わる法律など国際結婚を含めて様々な内容を扱いました。灘では生殖医療の進化に伴う「冷凍保存の精子で生まれ父親が亡くなった後に生まれた子供と父の父子関係」や「実母の卵子提供による代理母出産で生まれた子供と実母の母子関係」などをテーマに取り上げ現行の法律と実態のズレについて説明していました。

買いまくった栄養関連の本

進化思考には適応という考え方もあり4つの観点からいろいろ見ていくというプロセスがあります。
4つの観点は下の図にあるように、生態(テーマの外部、関係性、つながりなど)解剖(テーマの内側、構造、構成要素など)系統(テーマのこれまでの歴史、成り立ちなど)予測(テーマの未来、今後)です。

今考えると食生活分野では、この適応の4観点で中高生の食についての知識を広げていけるよう授業を展開していた事に気づきます。

もし在職中に「進化思考」に出会い、この観点を取り入れて生徒達に自分が興味がある食関連のテーマを決めて調べ授業中に発表してもらう形式の反転授業を取り入れていたら、生徒達の栄養についての知識の身に付き方が全然違っただろうと思います。

進化思考より抜粋
保育関連の本

長い家庭科教師人生で多分一番変化が激しかったのは保育領域だと思います。女子だけの時はいかに賢い母となるかが重要な価値をされていたのに、今では子育ての考え方は多様。発達障害も社会的に広く知られて来ました。

さらに集団保育の現場でも画像のレッジョ・エミリアやモンテッソーリなど、従来の保育スタイルとは一線を画すスタイルも広まっています。こういう内容をどこまで取り上げながら、やがて父や母となる可能性のある生徒達に何をどう伝えていくかは担当者次第なのだろうと思います。

6 まとめ

ここまでお読みいただきありがとうございました。学校の家庭科で扱う内容の進化について少しでも知っていただけたならうれしく思います。

「先生の授業は実際に社会に出てから改めて聞くと本当に納得できそうですね。」ある先生の言われた言葉です。こうしてやって来た事を振り返ると、その先生の言う通り在職中はいつも未来ばかり見ていた事に気づかされました。

「社会に出ても困らないように」「卒業後に少しでも役立つように」これは逆に言えば中高生である彼ら自身をしっかりと見る事が出来ていなかったのかもと反省しています。

ただ逆に言えば今お読みいただいている方々が社会人であれば、自分の暮らし方を振り返りライフスタイルを見直し作り変えるヒントになるという事ではないかと思います。

家庭科は衣食住に加え、高齢者(自身の加齢や老親の世話・介護など)、保育、消費者分野(消費者問題や消費に伴う意思決定など)、家計(税金や社会保障、生活費のやりくり、資産運用、保険を含む人生設計のリスクマネーメントや転職や起業も視野に入れた将来設計に伴うマネープランなど)、環境分野、共生など幅広い領域を扱います。(私は学習指導要領が変わる直前に退職したので、ここでまとめた内容が今の家庭科とは違っているかもしれません。間違いがありましたらお許しください。)

今、時代の大きなうねりの中でそれぞれの人が自分らしい生き方や暮らし方を模索し自分が信じる道を進もうとしているのではないかと思います。

7 ライフスタイルつくりのヒント

もし今の自分のライフスタイル〈生き方や暮らし方など〉に少しでも違和感を感じたら「何をどう変えればいいのか」ちょっと立ち止まって考えてみませんか? 

① 何を変えたい?

自分が変えたいと思う、新たなライフスタイルをつくりたいと感じているのは、どの分野でしょう?

  • 食生活(食習慣・栄養バランス・体調管理など)

  • 衣生活(服での自己表現・服関連の家事・服と体調など)

  • 住生活(住空間・住環境・住まい方・住居費など)

  • 家族関係(夫婦関係・子どもとの関係・親との関係など)

  • 家計(収支の見直し・資産運用・今後の資産計画など)

  • 消費スタイル(キャッシュレスへの対応・リスク管理・物の管理など)

  • 人生設計の見直し(働き方・転職・起業・3大イベントへの備えなど)

  • 暮らしや人生のリスク管理(保険・災害対応・結婚や離婚など)

  • 保育(子育てのスタイル・家族計画・教育方針など)

  • 環境(個人で出来るエシカル消費、SDGsへの取り組みなど)

② どう変えて行きたいのでしょう?

今、自分のライフスタイルがどうなっているかを振り返り、これからどうしたいのかを考えていく時にお使いいただけるのが進化思考の適応です。食分野でまとめた内容を参考に4つの観点で書き出していくといろいろな気づきを得る事が出来、ライフスタイル作りに役立つかと思います。

もし何か全く新しいスタイルにつくり変えて行きたいとしたら、進化思考の変異がおすすめです。

変異の9つの項目については家庭科の進化を例にしていますが、まとめていますので是非参考になさって下さい。

長い文章をお読みいただきありがとうございました。本でたどった家庭科の進化進化思考の変異や適応の考え方が、お読みいただいた方のライフスタイルつくりにとって少しでもお役に立てばうれしく思います。〈終わり〉