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サステナブル マテリアル展からパームヤシとナノセルロースの話題(元教授、技術展に行く:その5)定年退職43日目

4月に「技術展に行くシリーズ(その3)」で、紙の加工技術展の中から、植物性廃棄物を活用した新素材について紹介しました。たとえば、竹から手漉きで紙を作ったり、不要になった廃材・端材をパルプに混ぜ合わせて紙を作成するなど、いずれもアップサイクル型環境紙(注1)の製造が注目されていました。今日は「高機能素材Week」のサステナブル マテリアル展から、紙に関する新たな展示内容2つの紹介をします(タイトル写真:注2、3)。

高機能素材Weekの様子

サステナブル マテリアル展の入り口付近に、クラウン・パッケージという会社が展示していました。申し訳ないことに会社名を存じ上げなかったのですが、最初に目に飛び込んできたのは「ヤシカサ」の展示でした。ヤシカサは、パームヤシからパーム油を製造する際に残る廃棄物で、タイトル写真左にもあるように40 cm もの大きさがあります。これを、年間通じて安定供給が可能な非木材パルプとして、紙の原料の一部にするそうです。

展示品にはこれ以外にも多彩な色の紙(紫、緑、赤、ブラウン)が並んでいました。例えば紫色の紙は、ブルーベリーからサプリメントを製造する際の「ブルーベリーの搾りかす」を紙の原料に配合して作成します。他の色は、茶葉、笹、カカオ、紅花、ゴマから作られており、それぞれ緑茶、医薬品、チョコレート、食用色素、ゴマ製品の製造の時に生じる廃棄物(未使用)だそうです。特に緑茶の場合は、緑の色だけでなく、抗菌・抗カビ・消臭効果が期待できます。

ブルーベリーの搾りかすや茶殻を用いて作成した紙(注2)

これらの特徴は、単に紙の原料の森林資源を節約できるだけでなく、一度役目を果たした「素材」を紙の原料として再利用したものです。これらの素材を各製品(たとえばブルーベリーやチョコレート)のパッケージに利用することで、製品のイメージアップやSDGsへの貢献が期待されます。

会場では、同社の極薄の段ボールや開くと中身が飛び出るパッケージなども展示されており、循環社会に貢献する紙の技術がどんどん広がっていく様に、力強さを感じたブースでした。


その近くには、10社以上集結して展示を行っているナノセルロースジャパン(NCJ)という組織がありました。ナノ化したセルロース(CNF)の技術開発・普及を目指しており、各社それぞれ特徴のある展開をしていて面白く拝見しました。特に下記2つに注目しました。

・スプレー可能でタレない(流れない)ゲル:CNFのネットワークを破壊しゲル状でありながらスプレーを可能にしました。さらに、付着後にネットワーク構造が再構築され、タレ(流れ)にくくなります。乾燥すると、高強度で透明な皮膜が形成されることになります(第一工業製薬、レオクリスタ)。

スプレー可能でタレない(流れない)ゲルと乾燥後の皮膜(注4)


・透明でフレキシブルなセルロース:繊維径3 nm の完全ナノ化されたCNFを使用し、透明な連続シートが製造されました。木質原料ながらガラスに匹敵する透明度かつフレキシブルさを持つ材料で、様々な用途が期待できます。会場ではデモとして透明な折り鶴が展示されていました(王子ホールディングス、アウロ・ヴェール)。

透明でフレキシブルなセルロースと透明な折鶴(注3)


このように、サステナブルマテリアル展から新しい紙の展開が見られてとても楽しめました。次回は、高機能プラスチック展から感温性プラスチック材料などについて紹介しますので、お楽しみに!

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注1:アップサイクルとは、廃棄物に新たな付加価値を与えてアップグレード(再生)するという意味
注2:(株)クラウン・パッケージ社のパンフレットより
注3:王子ホールディングス(株)のパンフレットより
注4:第一工業製薬(株)のパンフレットより


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