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グレープの「精霊流し」: ドキュメント72時間で元教授 驚く(定年退職94日目)

高校時代、「グレープ」というデュオが好きでした(下写真:注1)。さだまさしさんのバイオリンと吉田政美さんのギターが切なく優しいフォークソングを奏でていました。「無縁坂」「朝刊」「縁切寺」「フレディもしくは三教街」などは、今でも私の iPhone に入っています(さださんがソロになってからは「風に立つライオン」「案山子」「主人公」「秋桜」などですね、好きな曲を挙げ始めるときりがありません)。

グレープの2人(2023年:注1)

そのグレープ時代に「精霊流し」という曲があり、当時多感な高校生だった私にとっては涙なしでは聞けませんでした。特に歌詞のサビの部分で「そしてあなたの舟のあとをついてゆきましょう(一番)」、「そして黙って舟のあとをついてゆきましょう(二番)」とあり、この歌詞から長崎の静かで悲しい別れの情景を連想していました。全国的にも「灯籠流し」という伝統行事が各地にあり、火を灯した灯籠を河川や海に流して霊を慰めるという風習があり(下写真:注2)、それと同じような行事だと思い描いていました。

灯籠流し(注2)


ところが、2016年に放送された NHK ドキュメント72時間の「長崎県 お盆はド派手に花火屋で」を観た時、それが全くの誤解だと気づかされました(歴代ランキングでも6位に入った人気の回です(下写真:注3))。番組では、花火屋が舞台で、長崎の人々がお盆の時(特に初盆に)大量の花火を購入する様子が描かれていました。700種類以上の花火があり、3日で3000人も訪れるといいます。地元テレビ局も生中継するなど、江戸時代から続く伝統行事として、子供も大人も楽しむ賑やかなイベントのようでした。

NHK ドキュメント72時間:歴代ランキング6位「長崎県 お盆はド派手に花火屋で」


インタビューで人々は、故人の魂が帰ってくるお盆に、笑顔で楽しく花火をすることが良い供養になると語っていました。しかし私の想像を超えていたのは、その悲しんでいる人々が線香花火や手持ち花火だけでなく、大きな打ち上げ花火や爆竹を大量に購入していたことです。私のイメージと違ってきました。


番組が進むと、花火屋の前の公園で「精霊船」の準備があちこちで始まります(下写真:注3)。その年に亡くなった人の魂を乗せて運ぶ船で、人々は涙を流しながら思い出の品などを飾り付けていきます。ようやく、これがさださんの歌う「舟」だとわかりました。ただ、その船は川に流すのではなく、なんと街中を練り歩くというのです。

花火屋の前の公園で「精霊船」の準備


さらに驚いたのは、その際に大量の爆竹が鳴らされます(下写真:注3)。大量といっても半端なく、何百箱も、時には一箱ずつではなく百箱入りの大箱を一気に燃やす様子はまさに圧巻でした。一千万発以上の爆竹が、わずか数時間で消えていくのだそうです(ちなみに、そのルーツは中国にあり、大きな音が邪気を払うという意味があるとのこと)。

大量の爆竹が鳴らされます


私の思い描いていた、「長崎の静かで悲しい別れの行事」とは全く異なる情景で、愕然としました(下写真:注3)。そして、この行事を盛大に行うことで、故人を喜ばせるとともに、残った人々の寂しさも紛らわす大切な行事なのだと気づきました。

長崎のお盆はド派手に


そして最後ですが、長年わからずにいた「精霊流し」の歌詞の一節「私の小さな弟が 何にも知らずにはしゃぎまわって 精霊流しが華やかに始まるのです」の意味を、50年の時を経て、ようやく理解しました。


<追記>
また、印象的だったシーンは、長崎出身の夫を亡くした若い女性のエピソードです。彼女は夫の初盆をどうしても長崎で過ごしたいと、出身の神奈川から訪れ、亡き夫を思い出しながら舟を飾り付け、街を巡っていました。周囲の人から「長崎人と結婚したら最後はこうなるんだよ」と声をかけられながら、彼女自身も爆竹を投げます。そして「これで寂しさが減るわけではないけど、少しずつ心の整理ができてくるのかなと思う」と語っていました。

<追記2>
この文章を書いた後、奥様が「ファーストアルバム『わすれもの』1曲目の『精霊流し』のイントロ・アウトロには鉦(かね)と爆竹の音が入っていたよ」とのコメント。聴いてみると、確かにアルバムバージョンは、そのようになっていたようです。

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注1:ビクターエンターテインメント グレープ公式サイト より
注2:AdobeStock 無料版より
注3:NHK ドキュメント72時間「長崎県 お盆はド派手に花火屋で」テレビより



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