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「紙」の新しい使用法と新素材 @紙加工技術展(元教授、技術展に行く。その3):定年退職30日目

前回(その2)の更新から少し時間が空いてしまいましたが、4/18,19 に大阪産業創造館で開かれた「紙の加工に関する技術展」の2回目の報告をお届けします。前回は、紙の新機能に焦点を当てましたが、今回は紙の使用法の新しい方向性と新素材の創出についてお話しします。


まずは、「紙」のどんな点が環境にやさしいかを下記にまとめてみました(注1など)。特に、今回のテーマ「新しい使用法」に関しては、これらの性能を活かした革新的な製品が多く見られました。

 ・植林による原料の再生産
 ・木の成長段階での二酸化炭素吸収によるカーボンニュートラル性
 ・微生物による優れた生分解性
 ・高いリサイクル率(古紙回収など)
 ・畳める性質

これらは、競合するプラスチックと比較しても明らかなメリットです。


1.プラスチック代替材料としての新しい使用法

・紙製のハンガー、フォーク、ストローなど:高密度で硬い紙の作成により、表面が滑らかで印刷適性があり、食品衛生法などの基準に適合する材料が作れます。これらの製品は耐水性や強度が求められますが、紙表面の成膜加工により耐摩耗性が向上します。そして、使用後の廃棄も容易なことが大きな利点です。

・透明なクリアフォルダーの代替:プラスチックの代わりに紙のフォルダーが提案されました。瓢箪から駒の発想ですが、見せたくない内容を束ねる際に便利で、表裏への自由な書き込みや印刷で表現力もアップします。実際、私もサンプル品を使用して満足しています(下写真、注2)。

表現力もアップする「紙」のフォルダー


・エアーリングペーパー(下写真、注3):プラスチックの気泡性緩衝材(プチプチ緩衝材)の代替として使用され、荷物の輸送時に役立ちます。エンボス加工によるリング状の形態で緩衝効果が得られ、さらに滑りにくく、ダンボールと同様にリサイクル可能な特性があります。

エアーリングペーパー(緩衝材)

・クラフト製防災寝袋:緊急時の保温性の高い寝袋として使用できます(特に、毛布との共用により効果大に。下写真、注4)。一番の特徴は、コンパクトに収納できるため、机の引き出し・車内・避難所に小さく置け、使用後はゴミ袋として使用できます。災害時の備えとして役に立ちます。

防災寝袋として

・抗菌便座シート:トイレ便座の衛生面が気になり、非接触を求める人が増えています。現在でも同様なものがありますが、今回は単に小さく携帯できるだけでなく、抗菌加工、使用後そのまま流せる、特殊接着剤によりずれにくい、などの新機能をつけました(海外旅行などに最適と思われます、下写真、注5)。

トイレ便座用シート


2.「新しい素材」の創出

・プラスチックフィルムやアルミ箔とのラミネート・蒸着:それらの組み合わせにより、紙が水、オイル、気体などの優秀なバリア素材になります。割合によっては紙としての廃棄も可能です。

・植物性廃棄物の活用:昭和初期に途絶えた手法の復活で、和紙と同様な方法で竹からも手漉きで紙を作れることが紹介されました(下写真、注6)。特に、非可食部として廃棄している幼竹の皮は原料として有用だそうです。放置竹林の解消や紙づくりを通じての地域課題の解決も目指しています。

竹から作れる手透き紙

・アップサイクル環境紙(アップサイクルとは、廃棄物に新たな付加価値を与えてアップグレード(再生)するという意味):不要になった廃材・端材として植物の皮・種、衣類などを30%まで混ぜ合わせてアップサイクル環境紙を作成します。循環社会に貢献する紙として、名刺、下げ札、POP、ノート、封筒、自社の記念誌(環境へのPR)などになります。

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最後に、「紙」の定義としてはここに含めるべきかわかりませんが、高密度ポリエチレンやポリプロピレンの不織布も紙状材料としてある化学会社から展示されていました。ポリマー繊維の織り込み時の紡糸スピードと結合の条件の組み合わせにより、紙・フィルムの風合い(ハードタイプ)と布の風合い(ソフトタイプ)が作り分けられるとのことです。高分子のもつ通気/透湿性、耐水性(圧)、撥水性、軽さ、耐久性、耐薬品性など多様な性質を付与でます。より良い材料のためには、紙とプラスチックで喧嘩している場合ではないということかも知れません。

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注1:大王製紙(株)パンフレットなど参照
注2:アルプス印刷(株)パンフレットから
注3:柏原加工紙(株)パンフレットから
注4:関西紙工(株)パンフレットから
注5:(株)サンロール、パンフレットから
注6:(株)大同印刷所、パンフレットから

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