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元教授、新技術に驚く (その1: 水溶き片栗粉のダイラタンシー現象を利用したスピードバンプ @スペイン)定年退職67日目

最近大学には、オープンキャンパスというイベントがあり、夏休みなどに学外の方々を迎えて、大学の学生生活や研究内容を紹介しています。素晴らしい取り組みだと思っています。私たちが高校生の頃の情報といえば、「赤本」(下図:注1)か「螢雪時代」くらいしかなく、あとは偏差値を見るしかありませんでした。

赤本(最近装丁が少し変わったそうです)


かくいう私も、当時はほとんど大学の情報がなかった(高校(私?)もあまり受験に熱心ではありませんでした)のですが、ある時、同級生の兄が教育実習に来て関西の大学を紹介してくれて、その影響を受けた何人かと一緒にその大学を受験することになったくらいです(note:5/19)。


話が逸れてしまいましたが、そんな学生たちからすれば「オープンキャンパス」は非常に良い機会ですし、大学としても優秀な生徒を勧誘できて双方にメリットがあります(注2)。私たちも研究室見学を受け持ち、さまざまなデモンストレーションを行いました(その内容は、そのうちにゆっくり紹介します)。特に評判の良かったデモの一つが、標題の「ダイラタンシー」現象に関するものでした。名前だけ聞くと怪獣か恐竜の名前かと思われそうですが、何のことはない、どこの家庭にもある「片栗粉」(タイトル写真)を使った話です。


料理をされる方ならご存知のことと思いますが、水溶き片栗粉の挙動(動き)はとても面白いのです。ゆっくり動かすと液体のように自由に動きますが、素早く動かすと固体のように硬くなるのです。例えば、スプーンの上では普通の液体ですが、それを垂らすと固まって糸のようになり、また落ちて溜まると液体に戻ります。


私が初めてこの現象に気づいたのは、大学時代に通ったカウンターの中華料理店の厨房を眺めているときでした。ものすごい勢いで鍋を振っている大将が、水溶き片栗粉をお玉ですくう時だけ動きがゆっくりになるのです。ずっと不思議だったのですが、実際に試して初めて理由がわかりました。素早い動きでは、水溶き片栗粉は硬くなってすくえないのです。


さて、標題の話に戻ります。この現象を利用したスピードバンプがスペインにあるとのことです。スピードバンプとは、住宅地や学校の周辺などで、車の速度を落とさせるためのゴムやアスファルトでできた数センチの高さの段差です。私のいた大学構内にも設置されています。Badennovaというスペインの会社がスマートスピードバンプとして開発しており、その素材はわかりませんでしたが、生分解性で、無害で汚染がないそうです(注3)。YouTube(注4)を見ますと、仕組みはシンプルで、低速でそのバンプを通過する場合、中が液体なのでほとんど抵抗なく通れますが、ある速度以上で通過しようとすると急速に固体のように硬くなり、通常のバンプのような段差となっていました。


「ダイラタンシー」に関して少し科学的に説明しますと、普通の液体は「ニュートン流体」といい、力を加えるとその力に応じて自由に動きますが、世の中には異なる挙動をする液体が多くあります。それが今回の「非ニュートン流体」です。代表的なものが、動きが速くなると硬くなる「ダイラタンシー」で、逆の挙動を示すのが「チキソトロピー」です。詳細は省略しますが、小さな粒子から成っている溶液ではダイラタンシー現象がしばしば見られます。片栗粉以外でいうと、海の波打ち際に行くと、濡れた砂はゆっくり踏むとズルズルと流れますが、早く動くと硬くなって走れるようになりますね、あれです。

次回に続きます。お楽しみに!

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注1:教学社ホームページより
注2:高校によってはオープンキャンパスへの参加を単位として認めているところもあり、そのために集まる学生もいるようです。個人的には少し複雑な気持ちですが、これが彼らの良いきっかけになるのであれば、それも1つの方法かと思います。
注3:https://cordis.europa.eu/project/id/761625
注4:The intelligent Speed bump by Badennova.avi(https://www.youtube.com/watch?v=2fng6gCjl58)


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