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引き算で生まれた新デザイン: 110年ぶりの牛乳パック進化 (元教授、定年退職204日目)

昭和34年生まれの私にとって、小学校時代の給食といえば、脱脂粉乳とコッペパンが定番でした。奥様は5歳年下で、脱脂粉乳を知らないため、世代の違いを感じさせられることがあります。中学校に入ると、脱脂粉乳は牛乳に変わり、ソフト麺が出る日には心が躍ったものです。

<追記1> 最近視聴したNHK番組「所さん ! 事件ですよ」のパン特集の中で、学校給食のパン提供がなくなる可能性が取り上げられていました。日本の給食でパンが提供され始めたのは、1954年にアメリカの小麦が余剰になったからだそうです。約40年前からは、日本の米が余るようになり、米飯給食が始まりました。現在では週5日の給食のうち、米食が3.6日、パン食が1.3日となり、学校給食用のパン業者が窮地に立たされているそうです。 

学校給食は米食が3.6日、パン食が1.3日(注1)

 

今回、給食の話題を取り上げたのは、日曜朝のTBS番組「がっちりマンデー!!」で、給食の牛乳パックが特集されていたからです(番組では「引き算ビジネス」というテーマで、他の例としては布団乾燥機から本体を、パンツからはゴムを引き算した例が紹介されていました)。実は、牛乳をはじめとした飲料の紙パックは1915年にアメリカで誕生して以来ほぼ変化無く、今回の刷新は約110年ぶりです。「コロンブスの卵」的な話ですが、「画期的だ」と紙パック業界に激震が走ったそうです。(下写真もどうぞ)

今回の刷新は約110年ぶり(注2)
画期的だと、紙パック業界に激震(注2)


さて、学校給食用の牛乳パックですが、「(従来の牛乳パック) ー (ストロー) = (ストローなしの新型牛乳パック)」という引き算がなされました。コストダウンや環境への配慮が期待できますが、そのままでは口を開けて直接飲むと中身がこぼれやすいという問題点がありました。誰でも経験する「牛乳パックあるある」ですね。


この新型紙パック「スクールポップ」を開発したのは日本製紙グループです。問題となったのは、なぜ従来の方法で溢れやすいかという点でした。調査の結果、開けると飲み口のところに段差ができ、そこから中身が加速して急に溢れることがわかりました。そこでパックの形状を工夫し、なだらかに傾斜させることで、この問題を解決しました。その結果、飲み口までがまっすぐになり、こぼれにくくなりました。


一見、従来の紙パックと大差ないように見える「スクールポップ」ですが、折れ線の形と位置に工夫が凝らされています(下写真)。開封方法は以下の通りです。

  1. 「Push」部を押し込み、へこませる 

  2. 飲み口の封を開ける  

  3. へこみ部分を膨らませるように押し出す

特に折れ線の位置が重要で、上すぎると反発ができてしまって膨らみが戻ってしまいますし、下すぎると押した時にうまく形にならず、パックが潰れた形になってしまうことがわかりました。

折れ線位置が重要(注2)

この新型牛乳パックは2021年から発売され、年間約5億本売れているそうです(給食用の紙パック全体では年間15億本)。


私もスーパーで購入して実際に試してみましたが、確かに飲みやすさを実感しました(下写真)。大人ですから従来のものでも気をつければこぼさずに飲めますが、小学生には「スクールポップ」の方が適していると感じました。

スーパーで購入して実際に試したところ、確かに飲みやすさを実感

<追記2> 直飲みに関しては、私は衛生面で、奥様は行儀面で議論の余地があると感じました。衛生面については、その場で飲みきってしまうことから小学校の給食限定であれば大きな問題はないのかもしれませんが、逆に、奥様は小学校の給食だからこそのマナーやエチケットの面で少し違和感を感じたそうです。


番組テーマの「引き算」で大切なのは、引くことによって機能を損なってしまっては意味がないということです。つまり、機能を落とさずに何を引くのか、そしてそのための技術力が必要不可欠です。その意味でも、今回の発想は素晴らしいものでした。 


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注1:NHK番組「所さん ! 事件ですよ」より
注2:TBS番組「がっちりマンデー!!」の「引き際ビジネス」特集より

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