私の暮らしに溶け込む「竹」の魅力: 元教授、定年退職184日目
私が小さい頃、夏になると必ず母方の祖父母の家に遊びに行くのが恒例でした。そこでは毎年、祖父が竹で弓矢を作ってくれたのです。家の外れの竹林から手頃な竹を選び、削って作り上げてくれました(私がふだん住んでいた町では、そのような遊びは危険ということで許してもらえませんでした)。私はその竹の弓矢を抱え、サルスベリの木に登ったり、家の中を駆け回ったことを今でも鮮明に覚えています。思い返せば、それは厳格だった祖父の精一杯の愛情表現だったのかもしれないと、目頭が熱くなります。
さて、今回はそんな思い出とも重なる「竹」についてお話をさせていただきます。
大学時代の思い出の竹林
大学時代、私は京都に長く住んでおり、その経験から竹に特別な親しみを感じていました。近年では嵯峨野にあるトンネルのような竹林の道が観光名所として有名になりましたが、私が心を惹かれたのは京都の多くの寺で目にした竹林です。下宿の近くにあった銀閣寺にも小ぶりながら丁寧に手入れされた竹林があり、美しい竹垣で仕切られた小径が印象的でした。休みの午後に散策に行くと、竹のもたらす柔らかさや透明感に触れ、その幽玄な世界に心癒されていました。
NHKの番組「美の壺:竹」から
先日、NHK BSの番組「美の壺:File 584 まっすぐ清らか 竹」(出演:草刈正雄さん)の再放送を視聴し、改めて竹の奥深い魅力に気づかされました(タイトル写真:注1)。番組内で紹介されていたのは、京都の「竹の寺」として知られる禅寺です。見た目には自然そのものですが、実は計算された人工美があるとのことでした。また、「京銘竹」の制作現場での名人技や、おもてなしをする主人自ら手作りする「茶杓(ちゃしゃく)」、500年の歴史を持つ技術で作られる「茶筅(ちゃせん)」、さらには世界に注目される「竹アート」も取り上げられていました。(下写真もどうぞ)
特に興味深かったのは、日本国内には600種類もの竹があり、それぞれに個性があるということです。例えば、太く高く育つ「孟宗竹」、縦に筋の入った「しぼ竹」、弾力に優れた「真竹」、ゴマのような模様の「胡麻竹」、黒が映える「黒竹」、淡い緑の「淡竹」、虎模様の「虎竹」、ユニークな形の「亀甲竹」などがあり、それぞれの特性が活用されています(下写真)。
これらの多様性を活用している「竹アート」も印象的でした。膨大な量の竹ひごを使った「GUCCI」の店内装飾や中国のホテルの空間デザイン、そして「大阪高島屋」での製作現場の様子が紹介されました。竹ひごの作製も紹介され、最後には会場の空間全体が一つの作品に作り上げられ、その伝統と現代を見事に融合させた世界に感激しました。(下写真もどうぞ)
現在の私の暮らしに溶け込む竹
現在住んでいるマンションを選ぶ際の決め手の一つも(賃貸ですが)、実は窓の外に広がる竹林の景色でした。以前湯河原の老舗旅館「山翠楼」に宿泊した折、青々とした竹林に囲まれた部屋に心を奪われ、「いつか、こんなところに住んでみたい」と奥様と話した夢が少し実現したのです。
さらに、今座っている私の机の前には、東山魁夷の「京洛春秋・夏に入る」という木版画のコピーを飾っています(下写真)。近所のスーパーでもらったカレンダーの絵を額に入れただけなのですが、初夏の竹林に日差しがもれる風景は、私のお気に入りで、日々の暮らしに安らぎを与えてくれています。
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注1:NHK BS番組「美の壺」、「File584 まっすぐ清らか 竹」より
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