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五右衛門風呂とゆでガエル:元教授、定年退職75日目

先日親戚が集まった際、福島県いわき市にあった田舎の実家の話題になりました。今は他の方の所有となっているのですが、最近弟が近くを訪れたところ、家の象徴だった大きな門扉が東日本大震災の津波で流されてしまったと聞き、驚きました。海から1キロも離れていたのに、自然の脅威は恐ろしいですね、残念なことでした。

福島県いわき市(いわき市 HPより:注1)


その話の流れで昔の家の話になり、私もいろいろな思い出がよみがえりました。毎年夏、長期間遊びに行きました。山で青大将を見つけたこと、田んぼのあぜで大きなオタマジャクシを捕ったこと、近所の養鶏場で遊ばせてもらったこと、夜には浴衣を着せてもらったこと・・・その中で、ふと頭をよぎったのが「五右衛門風呂」でした。親戚たちは誰も覚えていませんでしたが、私にはとても印象的でした。

五右衛門風呂をご存知でしょうか? 大きな鉄釜を使ったお風呂ですが、もちろんそのまま入ることは熱くてできません。そこで、大きな木の蓋板を釜の中に沈め、その上に乗って入浴するのです。泥だらけになって遊んで帰ってくると、よくこのお風呂に入らせてもらいました。とても気持ちよかったことを覚えています。


最近ではキャンプが流行っているので、ドラム缶で五右衞門風呂を楽しむ人たちもいるようです。気をつけなければいけないのは、鉄の釜が非常に熱くなること。ヤケドしないように注意が必要です。それでも、野趣に溢れる体験は格別でしょう。


ところで、「五右衛門風呂」の名前の由来は、安土桃山時代の天下の大泥棒、石川五右衛門に由来します。豊臣秀吉の命で捕らえられ、京都・三条河原で釜茹の刑に処された、という伝説から来ています(タイトル写真、下写真:注2)。享年36歳だったそうです。石川五右衛門は、私の好きな落語にも度々登場します(「お血脈」など)が、悪人というよりは義賊として描かれることが多いように感じます。最期の時に詠んだとされる句が、それも実は「盗んだものでした」というのがオチの話も定番です。(「追記」もご覧下さい)

「天下の大泥棒・石川五右衞門」速水一平著(イーグル出版)より



さて、私は現役時代、大学の研究会や懇親会などで、学生たちに様々な話をする機会がありました。最近の出来事や雑談が多かったのですが、時には先生らしく教訓を語ることもありました。その中の一つが「ゆでガエル」という逸話です。その話をする時、先ほどの「五右衛門風呂」をマクラとして話していました。


ゆでガエルの逸話とは、カエルを水の入った洗面器に入れてゆっくり熱していくと、カエルは最初は暖かくて気持ち良いと感じますが、知らず知らずのうちに温度が上がり、気がついた時には逃げれなくなって死んでしまうという話です。少々残酷な話ですが、ビジネスの世界でもよく比喩として用いられます。

最初から熱いお湯にカエルを入れるとすぐに飛び出しますが、ゆっくり温めていくと危険を察知できない!というところでしょうか。この逸話からの教訓は「いつまでもぬるま湯に浸かっていてはいけません。現状を把握し、穏やかな変化にも注意しなさい」、そして「特に若者はその状況に甘んじず、外の世界に早く飛び出して行きなさい」ということです。


今の自分にとっても、耳が痛くなるような話です。

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<追記>
そういえば、「東海道中膝栗毛」にも五右衛門風呂が登場していましたね。小田原の宿で、弥次さん喜多さんが見慣れない五右衛門風呂に入ろうと悪戦苦闘する様子が面白おかしく描かれていました。

注1:いわき市ホームページより
注2:「天下の大泥棒・石川五右衞門」速水一平著(イーグル出版)表紙より


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