シリーズ：他人の大学Ⅱ　得しようとして損をしてしまう人

　嫌われたくないあまりに嫌われてしまう人がいるように、「得をしたい」という気持ちが強すぎて損をしてしまう人もいます。これって一体、どういうことなのでしょう。

　たまに私のSNS宛に、「音楽やってます！　YouTubeで聞いてください」とURLが送られてくることがあります。確かに、なんでも手を尽くして少しでも人の目に触れて一刻も早く売れたいという気持ちは理解できるのですが、それでは絶対に上手くはいかないだろうと断言できます。なぜならば、メッセージの送り主は自分がいかに得をするかという一点だけを考えて行動しているからです。承認より信用という話にも近いですが、「自分だけが得をしたい」と考えていると、必ず損をします。これは商売の基本ですが、人間関係においても同じです。

　私の実家は商売をやっているのですが、稀に父と顔をあわせるとこのように聞かれます。

「君の商売の顧客満足度はどうなんだ」

実は、儲かっているかどうか、ではなく、周りの人間が本当のところで満足しているかどうかが最も重要なのです。

　物事を始めると、ついつい自分の利益や得ばかりを考えてしまいますが、それでは続けていくことができません。やっていることを継続させていきたい場合、まず考えなければならないのは「相手の利益」です。知らない人に対してURLを送りつける行為は、言って見れば無断で広告をポスティングするようなものです。自分の得だけを考えていると、つい数を打てば当たるだろう、といった自分にのみ都合がいい見当違いの皮算用をしてしまいがちになりますが、相手は一人一人人間です。当然、あなたと同じように損得で判断をします。勝手にポストにゴミを入れられたら不快ですし、損を与えてくるような相手のことは無視します。無視で済むならまだしも、ネガティブなイメージを持って今後応援してくれる可能性がなくなることだってあり得るでしょう。なにごとも、相手がいなければ成立しません。商売も、客がいなければ成立しないのですから、まず最初に考えるべきは「相手の利益」です。自分がやっていることで、相手がどれだけ得をして幸せになれるか、できる限り真剣に考え抜いた方がいいのです。自分の利益について考えるのはその後で構いません。むしろ、自分の利益なんて考えなくて大丈夫です。なぜならば、自分の周りの人に利益を与えられるような構造が成り立っていれば、自然理に自分にも利益が発生することになるからです。

たまに、「なんでそんなに親切なストーリーを更新するんですか？」

と聞かれることがあります。「ストーリー」とは、instagramの機能で２４時間で消える仕組みの投稿のことです。このストーリーには質問を募集して答える機能があるので、しばしば返答をしていると聞かれるのが上記の質問という訳です。ストーリーに答えたところでお金が儲かるわけでもないし、ただただ見ている人が得をするだけなので、人によっては行動原理が不思議に感じられるのでしょう。

なぜなのか。単刀直入に答えるとそれは、私自身が「他人がいい思いをして喜んでいるとすごく嬉しい」というサービス業に向いた性格をしているからというのが最も大きいのですが、それだけでなく「他人を得させてあげることができれば、かならずそれは自分の得にも繋がる」ということがよく分かっているからです。儲かっているかどうか、よりも大切なのは、相手が満足をしているかどうかであって、今すぐ利益が懐に入る儲けになっていなくても構わないので、とにかく他人が得できる環境を作っておくことが何より大切です。特に今はインターネットで物質の有限性に捉われずにいくらでも無限に他人に得をさせることができるので最高です。こんなにいいことはない。他人に得をしてもらう。まずは下心なしに誠意を尽くす。この基本が守られていないと、焼畑農業のようになってしまって何事も後が続きません。

これはなにも商売に限った話ではなく、人間関係においても同じです。相談したいことがあるときに、無理に話を聞いてもらおうとしなくても、普段から人の話をちゃんと聞いていれば、何かあった時は周りの人が自然に自分の話を聞いてくれるようになります。お互いに親切心のある関係が築けているならば、むしろ、喜んで聞いて貰えるでしょう。人間の性質として、贈与には常に返礼が伴います。これは物質として目に見える形で現れることもありますが、根本的には無形のものです。形式張った贈与は煩わしいと思う人もいるかもしれませんが、形式なんて全く無視して構いません。重要なのは、その根のところにある無形のものだからです。人間同士の関係は、すべてこの名前もない無形のものによって成り立っています。商売だろうが、家族だろうが、恋人だろうが、この根っこにある無形のものを無視されて扱われると、人は尊厳をないがしろにされたような気分になり傷つきます。そうすると関係は壊れてしまい、商売も人付き合いもうまくいかなくなります。

これは、要するになんでしょうか。